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101番目の舶ィ語
第四話。甘い誘惑……
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ゆっくりと……



「振り向いちゃえよ、一文字疾風」

「振り……向いちゃえ……よ……一文字……はや……え?」

うわごとのようにつぶやいていた自分の声に気がつく。

「って、ウオッ??俺の口、勝手に??」

「大丈夫だって。心配いらねえって。な、恐がる必要なんかない。ささっと振り向いて、パパっと見ちゃえよ。それが一番……」

……恐ろしい事に、俺の声……俺が自分で理解している声が、胸ポケットのDフォンから響いていた。
それはまるで、自分の声を録音して聞いた声ではなく、頭に響いている時の自分の声と同じ……つまり。

『……気づいたのね。ふふ……残念♪』

「ッ??」

そんな声がすぐ耳元、俺の背後から聞こえてきた。
俺は止まりそうだった足を奮い立たせて、一目散に逃げ出した。
彼女はどうやってか知らないが俺の位置を正確に知ることができ、俺の声真似もできて行動も予測できる、そんな存在のようだ。
逃げられない。
もう逃げるのはやめた方がいい。

そんな気分になってきた。

町中を駆け出しても携帯に、Dフォンには相変わらず着信が鳴り響き、彼女の声が響いた。
胸元から聞こえてくる声は無視して前へ、前へと突き進んだ。

『クスクス……クスクスクス』

胸元のDフォンからは、ただただ彼女の笑い声だけが響いていた。





気がつけば俺は自分の家。
一文字家の前に辿り着いていた。

すぐに玄関を開けて中に入ると、鍵とチェーンを閉めた。
何か身を守る物はないか、と家の中を探し台所から包丁と果物ナイフを持ち出してすぐさま自分の部屋がある二階に駆け上がる。

当然のように家の中には誰もいなかった。
何時もならとっくに帰ってきているはずの従姉妹(リア)もいない。
半ば予想していただけに、心構えはできていたが……。

こうなると、この街から人が消えた、というより、俺の方が街から、世界から隔離された、と考えた方がいいのかもしれないな。

念のために部屋の鍵をかける。
さらにドアの前に洋服タンスを移動させておく。
こんなんで時間稼ぎになるとは思えないが、何もないよりマシだ。
家の中に戻ってくるなんて普通ならしない行為だろう。何故なら何処にも逃げ場がないのだから。
かといって当てもなく町中を彷徨っても状況は不利になるだけだ。
家の中も決して安全ではないが、それでも帰って来たのには理由がある。

都市伝説には撃退法があるものもある。
走りながら思い出したのは『口裂け女』や『トイレの花子さん』にも呪文を唱えたり、犬が苦手だったり、などの撃退法が存在することだ。
『メリーさん電話』にも何かしらの対処方法がある……はずだ。
ネットを使えば簡単に調べられるだろう。

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