第一章
[2/2]
[9]前 最初 [2]次話
じゃないですよ」
しかし彼はこうマネージャーに返したのだった。
「これは。お世辞じゃないです」
「じゃあ本音だっていうのかい?」
「はい」
彼は正直に述べた。
「写真で見るよりずっと奇麗ですよね」
「奇麗なのは確かだね」
彼もそれは認めた。特に今の彼女は髪を後ろで束ねその見事な額まで見えて余計に美人に見えていた。彼の言葉も無理がなかった。
「それはね」
「だから言ったんですけれど」
「あの人のことは知っていても?」
「はい」
またマネージャーの言葉に応える。
「聞いてます。全部」
「繊細な人だから」
顔を顰めさせてまた剣人に言ってきたのだった。
「何かあったら物凄い落ち込んだり悩んだりするから。言わないでね」
「わかりました」
剣人もそれはわかった。
「けれど本当に」
「奇麗な人だっていうんだね」
「ですよね。あんなに奇麗な人と共演できて」
また純粋に圭の整った顔のことを言うのだった。
「幸せですよ、本当に」
「やれやれ」
マネージャーも彼のその明るさと純粋さに呆れるしかなかった。何はともあれ撮影に入り圭は主演で剣人はその相手役であった。OLと若い社員の純愛ものであった。
剣人の役はそのOLである圭にただひたすら憧れる若い社員だ。話はコメディータッチで周りには様々なトラブルが起こり二人の邪魔をする。それを乗り越えて、という話だった。
撮影の中で剣人は常に圭を見ていた。そしてそのことをいつも言っていた。テレビ雑誌にもこのことを言いとにかくやたらと彼女を見ていた。
しかし圭は相変わらず撮影が終わればすぐに帰ってしまう。撮影の間の休み時間でもすぐに自分の車の中に入ってしまう。そうして殆ど誰とも会おうとはしない。だから皆彼女のことを話に出すこともなかったのだが彼だけは別だった。今日も撮影の合間に彼女のことを言っていた。
「本当に奇麗で優しくて」
「優しい?」
「優しいですよ」
こう皆に話していた。ちょうど昼の休み時間で他の共演者やスタッフ達と一緒にロケ弁を食べながら話をしていた。その時での話だった。
「とても。優しい人じゃないですか」
「そうかな」
「さあ」
だが誰もそれを聞いて懐疑的な顔になるのだった。
「だって話なんかしたことないし」
「そうそう」
すぐに閉じ篭ってしまう彼女と話したことのある人間はこのドラマの中においては誰もいないのだった。この頃には彼女の本来の性格のことを知らない者さえ多くなっていた。
[9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ