第百八十五話 義昭の挙兵その八
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「そしてその後はな」
「戦の後始末はですか」
「御主に任せる、よいな」
「さすれば」
「では今からじゃ」
見れば都の兵達の顔色はいい、信行がよく休ませいいものを食わせてきたからだ。信長はその彼等も見てだった。
そのうえでだ、森と池田、そして長政にこう命じた。
「よいか、それではじゃ」
「はい、今より」
「攻めるのですな」
「室町第の周りに藁を積め」
まずはそうせよというのだ。
「そしてそれに火を点けるのじゃ」
「室町第の周りにですか」
「そうじゃ」
森に対しても答える。
「そうせよ、よいな」
「わかりました、しかし」
「それでもじゃな」
「室町第の堀は幅があり水がたたえられており」
「火で攻めてもじゃな」
「あまり効果がないかと」
「何、焼くつもりはない」
信長は黒田を見たうえで森に答えた。
「そのままはな」
「そのままですか」
「そうじゃ、そして門の一つの前には藁を置くでない」
こうも言うのだった。
「わかったな」
「そこの道を開けるのですか」
「いや、藁を置かずにじゃ」
そのうえでだというのだ。
「兵を置くのじゃ」
「その門の前には」
「そうじゃ、わかったな」
「さすれば」
森は信長の信の狙いはまだわからなかった、しかし彼の言うことに間違いはないと確信していたからだ。それでだった。
彼は信長の言う通りにした、池田と長政もだ。忽ちのうちに室町第の周りに藁が積まれていった。
その様子を見てだ、義昭はいぶかしんで兵達に問うた。
「あれは何じゃ」
「いえ、我等も」
「あれが何かは」
「よくわかりませぬ」
「どういうつもりか」
「室町第の堀には水があるのじゃ」
義昭もこのことはよくわかっている。
「火なぞ周りで幾ら燃やしてもな」
「効きませぬ」
「その筈ですが」
「まことにわからぬわ」
こう言うのだった。
「そのまま攻めて来ると思ったがな」
「ですな、兵の数は増えましたが」
「織田の兵が」
「何処からか集めたか」
義昭はまだ気付いていない、信長が来たことに。都の民達の声も囲まれている室町第の中には聞こえなかったのだ。
それでだ、こう言うのだ。
「織田家は数だけはおる、しかしあ奴がおらぬ」
「織田信長が」
「あの者が」
「それならどうということはないわ」
義昭が最も恐れ憎んでもいる彼がいないのなら、というのだ。
「このままじゃ」
「守り」
「そうしてですな」
「じきに山城中の国人や寺社が立つ」
少なくともだ、義昭はこう確信している。
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