23:"アレ"
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俺は宿屋《ウィンキング・チェシャ》の看板をくぐり、外周の木のバルコニーをつたって歩き、建物の裏手に出る。そこは裏庭のようなやや狭めに開いた空間があり、さらにその奥には林があった。その木々を避けながら、中へと入っていく。
と、その先に索敵スキルでの反応があった。きっとユミルに間違いない。
……なんとなく、《隠蔽》スキルも駆使し、忍び足の隠密行動に出ながら距離を詰めていく。
やがて、マーブルの言ったとおり川のせせらぎが聞こえ始め、木々の壁が薄れてくる。
覗けてきた奥の空間へと目を凝らしながら数歩進み……
「…………!」
俺はとっさに身を屈め、傍の木の根元と茂みの中に身を隠した。
ユミルが居たのだ。ただ、その様子はマーブルが言っていた話とは些か事情が違っていた。
別に、ユミルの怪しい挙動が垣間見れたわけではない。だが、怪しいのは……このままでは俺の方だということになってしまう、なんとも奇妙な状況が出来上がってしまった為だ。
確かにユミルはこの林を抜けた先の川に居た。だがユミルは……
――服を脱ぎ、一糸纏わぬ全裸の姿だった。
ユミルは川の中をゆっくり歩きながら、川清水を手ですくっては体や髪へと注ぎ流している。どう見ても、風呂代わりに水浴びで身を清めていた。この世界では汗や代謝などで体が汚れない為に、入浴の必要は無い。だが、それでも気分や習慣でそういったことを日々欠かさない人もいると聞くが……
……………。
それにしても……とは思う。
濡れて一層艶やかになった金の髪が、清流の水面と共に僅かに差す日の光にキラキラと反射し、健康的な柔肌を惜しげもなく晒して、腰まで流水に浸からせてゆっくりとその流れに身を任せて歩いているその姿。老若男女問わず誰もがつい見惚れてしまうであろう、とても絵になるワンシーンなだけに……
本当に、本当にアレが男だということが惜しまれれる。
あの可憐な顔立ちに華奢で小柄な体、丸く小さい肩に、なよやかにくびれたウェスト。さらに耳をよくよく澄ませてみれば……
「……〜〜♪ ……――〜〜♪」
と、彼の細い喉から、澄み渡ったソプラノの鼻歌まで聞こえるのだ。変声期を迎えていないかのような、そんな洗練された天使の歌声。
まさに、絵に描いたかのような、美少女の水浴びの光景ではないか。
……しかし。しかししかし。
あの……断崖絶壁にも程がある胸部。
あれは最早言い逃れも出来ない、どうしようもなく、生物学的にユミルが男だという事実を、ステータスの【male】表記以上に、ひしひしと俺に伝えていた。
ユミルは、男の子なのだ。
だが、男の子なのだ。
なのだが……
……………。
……………。
「……っ
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