第二十八話 横須賀の思い出その九
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「どうにも」
「新幹線でもね」
「神戸から横浜に出てさ」
「そこからよね」
「何時間かかかるんだよ」
新幹線を使っても、というのだ。
「それがさ」
「問題よね」
「そうなんだよな、八条鉄道の特急を使ってもさ」
それで神戸から横須賀に向かってもというのだ。
「かなり時間かかるしさ」
「やっぱり関東と関西じゃね」
「距離があるよ」
その距離を移動する、即ち時間がかかるということだ。
「どうしても」
「そこが本当に問題よね」
「だよな、だからさ」
「横須賀に戻ることは」
「あたしの実家みたいなものだしさ、孤児院は」
親も親戚もそういった人は誰もいない薊でもそうした場所がある、このことは幸いなことだった。薊自身そう思っている。
しかしだ、それでもだったのだ。
「離れてるからなあ」
「戻ろうかどうか迷ってて」
「そうなんだよ、どうしたものかな」
「無理はしなくていいんじゃないの?」
これが裕香の言葉だった。
「私は実家に戻るつもりないし」
「奈良に行ってもだよな」
「うん、奈良って言ってもね」
確かに同じ県内にある、しかし裕香の実家の場所は。
「南の物凄い山奥だから」
「だよな、裕香ちゃんよく言ってるけれど」
「それでなのよ」
「だから帰らないんだな」
「とてもね」
同じ奈良県に入っても、というのだ。
「帰ろうとも思えないのよ」
「本当に辺鄙なんだな」
「辺鄙なんてものじゃないから」
「ただ遠いだけじゃないんだな」
そこが薊の事情とは違っているのだ。
「裕香ちゃんの場合は」
「奈良県はとにかく北と南で違うのよ」
それも全く、というのだ。
「北は便利なのよ」
「それであたし達が行くのは北か」
「奈良市とかだからね」
その奈良県の中心地だ、県庁所在地でもある。
「行き来も楽よ」
「そうなんだな」
「私高校入学してから帰ってないし」
それに、というのだ。
「多分これからもね」
「帰らないんだな」
「気が向いたらになると思うけれど」
それでも、だった。裕香の場合は。
「気が向くこともね」
「ないのかよ」
「本当に帰ってまた出るだけでも一苦労で」
それにだった。
「おまけにね」
「何もないんだな」
「ガスや水道はかろうじて通っているけれど」
あくまでかろうじて、である。
「それでも本当に山とか以外には何もないから」
「もう帰らないか」
「就職もこっちでするつもりだし」
つまり生活基盤をこちらに置くというのだ。
「少なくとも奈良の南じゃないわ」
「実家から戻って来いって言われたらどうするんだよ」
「どうしてもっていう時以外はね」
裕香は眉を顰めさせたうえで薊に答えた。
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