第二十八話 横須賀の思い出その八
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「中華街から来た人で」
「横浜の中華街ね」
「生まれは日本だけれどさ」
それでも、というのだ。
「ルーツはあそこにあるらしいな」
「どうして中華街から横須賀に来たの?」
「ううん、お店やってるんだけれどさ」
「ラーメン屋さん?」
「いや、散髪屋さんだよ」
彼が経営している店は、というのだ。
「その傍ら道場もやってるんだ」
「散髪屋さんなのね」
「何でも通称シナトコとか言ったらしいな、昔は」
「シナトコ、中国の散髪屋さんね」
その言葉を聞いてだ、朱美はすぐに言った。
「そうなるわね」
「そうそう、その仇名のことも師匠に言われたよ」
実際にそうだったというのだ。
「うちの店はそうした仇名だってね」
「薊ちゃんも知ってたのね」
「そうだよ、今でもお店やってるよ」
その横須賀で、というのだ。
「横須賀にいた時はよく使ってたよ、鋏の使い方も上手で」
「拳法だけじゃなくて」
「そっちでも出来る人なんだよ」
「鋏と剃刀を使っても」
「そうなんだよ、すぱっと切ってくれるよ」
薊は笑って朱美に彼の散髪の腕のことも話した。
「本当にさ」
「何か行ってみたくなったわね」
「そうですね」
朱美と伸子は二人の間でも話した。
「横須賀のそのお店に」
「横須賀自体にも」
「薊先輩のお話を聞いてるととてもいい場所ですし」
「あっちにも行きたくなったわ」
「私もです」
「実際にいい場所だよ」
薊も笑顔でそうだと答える。
「話してたら戻りたくなったな」
「そうですか、先輩も」
「横須賀に」
「大学出たらどうしようかな」
高校生にしてみれば遥かな未来のことも述べた。
「神戸に残ろうか、横須賀に戻るか」
「どうするかはなのね」
「これからですね」
「ああ、それから考えるよ」
こう笑顔で話してだ、そうしてだった。
薊はこの日も楽しく過ごしたのだった、そのうえで。
次の日登校しながら裕香にもだ、横須賀のことを話したのだった。
「それで夏休みさ」
「関西を皆で回るのとは別になのね」
「ああ、横須賀にさ」
「戻ろうって考えてるのね」
「あたし夏休みもこっちにいるよ」
女子寮にというのだ。
「快適だからさ」
「それで神戸にもいるのよね」
「ああ、けれどさ」
「横須賀にも戻って」
「それで院長さんにも顔を見せて」
「お師匠さんにも」
「ああ、顔を見せようってな」
そう考えていたというのだ。
「考えてるよ」
「横須賀ね」
「いい場所だよ、ただ」
「ただ?」
「遠いよな、ここから横須賀って」
そのことが、という顔になってだった。薊は裕香に言った。
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