トワノクウ
第十九夜 夢と知りせば覚めざらましを(一)
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行われた。翼は生への希求に従って羽ばたき、くうをゆったりと地上まで運んだ。
降り立ったくうを迎えたのは梵天だった。梵天が、硬直したくうの手を取った瞬間、くうの肉体に重さが戻ってそのまま梵天の両腕に落ちる形になった。
「やれやれ。動き回る分、母親よりタチが悪い」
梵天は、くうにも分かる形で、安堵を浮かべていた。
くうは梵天に助け出された夜のように、彼の首に腕を回してしがみついた。
「怖、かった、です」
素直に認める。死という恐怖ではない。己の肉体がいつからか大きく変貌していたと自覚した。そして、自分が篠ノ女空でない怪物になった気がした。その、恐怖。
「私、ほんとに妖になって、しまってたんですね」
くうは込み上げたものを削いで言語化した。顔を押しつけて隠したのは、梵天に弱々しい娘だと思われたくなかったからだ。
すると、梵天はくうを地面に下ろして。
「すぐに慣れる必要はない。要は自分が何者かを見失わなければいいだけだ」
「それは、身体がこんなでもくうは人間だと信じる、ってことですか?」
朽葉が混じり者でありながら人間として生きようとするように?
「君が人か妖かは君自身が判断すればいい。考えることを放棄してしまえば、己の形さえ見失ってしまうよ」
梵天の言葉は真理に聴こえた。人と妖という枠組みを外した判断は難航が予想されるだろうが、梵天が言うならやってみる意味は絶対に大きい。
「ありがとうございます。まずは混乱しないことからやってみます」
この翼はなに? 翼を生やすこの身体はなに?
そんなことを問うのではない。翼を持つ身体を持った自分は何か、なのだ。
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