アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方
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く成長し、互い違いに茎から伸びた葉も、糧である日光を少しでも多く浴びようとして逞しく両手を伸ばす。やがて頂上に一つのつぼみを作り、わたしたちが見守る中、それは気の遠くなるような長い一瞬をかけて花開いた。天から伸びた一本の糸のように細く真っ直ぐなシルエットは儚く繊細で、どこか凛とした力強い美しさも兼ね備えて見えた。
ふと、シリカちゃんの顔がこちらを向く。この花を本当に摘んでしまっていいのか――そう言いたげな瞳。
わたしは笑って、大きく頷く。安心したようにシリカちゃんは頷くと、恐る恐る、生まれたての赤ちゃんの肌に触るような手つきで細い茎に触れた。その瞬間、茎はまるで最初から存在していなかったかのように光りながら砕けて消え、周囲の色を寄せ付けない純白の花だけが、シリカちゃんの小さな手にふわりと乗った。彼女は心底大事そうに、人差し指で七枚ある花びらの一つを撫でた。
「これで……ピナを生き返らせられるんですね……」
「うん。でもここだとまだ敵も多いから、それは帰ってからにしよっか」
「はい!」
元気に頷き、満面の笑みで返してくるシリカちゃん。その嬉しそうな顔を見ていると、何故かこっちまで楽しい気持ちになってきて、いつしかわたしも笑っていた。
「それじゃあ、急いで帰っちゃおう」
「……ああ、その件だが」
シリカちゃんが《プネウマの花》をストレージにしまうのを見て、そう言いながら振り返った矢先、マサキ君が口を挟んだ。
「この後少し用事があってな。先に帰らせてもらう」
そう、一言。一方的に業務連絡を通達する、機械音声みたいな声。
「……え、あ、ちょっ……」
寝耳に水の通告に、一瞬わたしの思考が止まる。振り返り、走り去ろうとするマサキ君の背中が視界に入ったところで我に帰り、彼の右袖を掴もうとする。
「……悪いな」
しかし、わたしの手が袖に触れる寸前でマサキ君は腕を引くと、そのまま振り返らずに走り去ってしまった。こうなってしまえば、敏捷値で圧倒的に劣るわたしたちに追いつくことは叶わない。
「……仕方ないね。行こっか」
「は、はいっ」
昨日今日の二日間を一緒に過ごして分かったことだが、マサキ君は決して意味もなく約束を曲げるような人じゃない。そのことはシリカちゃんも分かっていたようで、若干の戸惑いを残しつつも頷いてくれた。わたしも頷き返して、頂上を後にする。
冷たい風が木々を揺らしながらわたしたちを追い抜いた。ふと、クリスマスに見たマサキ君の姿が頭をよぎった。
「……この辺り、か」
高速で後ろに流れていく景色の中、俺は呟いて《隠蔽》スキルを発動させた。今日最初の戦闘時にエミの索敵範囲は確認済み。たった今その範囲外に出た以上、彼女に感付か
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