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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方
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 顔を敵から背け、目を瞑りながら目茶苦茶に短剣を振り回すシリカちゃん。わたしは何とか彼女を落ち着かせようと宥めてみるが、シリカちゃんがパニックから回復する兆しはない。ここは助け舟を出すべきか――と考えながら隣のマサキ君に視線をやると、彼も同じことを考えていたのか、腰元に差した刀の柄に手を添えていた。それを見て、わたしも剣を抜こうと柄を握る。

「こ、こんの……っ!!」

 するとその時、じりじりと後ずさる一方だったシリカちゃんが、突然ソードスキルを放った。が、(ろく)に狙いの付けられていない攻撃が当たるはずも無く、本人にとっては必死だったのかもしれない一撃はあえなく空を切る。そして何を思ったか、花の化け物は技後硬直中のシリカちゃんの両脚に二本のツタを絡めると、そのまま逆さ吊りに持ち上げてしまった。彼女のツインテールとスカートが重力に引かれてずり下がる。

「わ、わわわっ!?」
「ま、待ってて!」

 シリカちゃんが必死にスカートの裾を手で押さえた時、わたしはもう駆け出していた。巨大花との距離を一気に詰め、《ソニックリープ》で花の根元の弱点を貫く。その途端、それまで全身をうねうねと動かしていた巨大花は動きを止め、数秒遅れて粉々に砕け散った。

「うわわっ!?」
「大丈夫!?」
「は、はい、ありがとうございました……」

 支えを失って落下してきたシリカちゃんを受け止めると、彼女は心底安心したように微笑んだ。その様子を見て、わたしもシリカちゃんを地面に降ろしながら安堵の息を吐く――と同時に、ふと思う。そしてそれはシリカちゃんも同じだったようで、次の瞬間には二人分の視線がマサキ君に集まっていた。わたしたちは不審そうに眉をひそめる彼に詰め寄るなり問いかけた。

「「見た(ました)!?」」

 わたしたちの勢いに若干面食らうようにしながら、マサキ君は一言だけ言った。

「……いや」

 その後の道のりはすこぶる好調に進んだ。最初はエンカウントの度敵の姿に怯えていたシリカちゃんも、戦闘を五回ほど行った頃にはすっかり落ち着きを取り戻し、わたしたちは時折談笑を交えながら赤レンガの街道を歩いていた。そうしているうちに小川に架かった小さな橋に差し掛かる。その向こうには周囲のものよりも頭一つ分背の高い丘が見えた。シリカちゃんが感嘆の声と共に立ち止まる。

「あれが……」
「うん、《思い出の丘》。分かれ道はないから道には迷わないけど、モンスターはこれまでよりもずっと多いし強くもなるから、気をつけてね?」
「はい!」

 希望に溢れた笑顔で頷いて、シリカちゃんは再び足を踏み出していく。心なしかその歩みは今までよりも速く、力強く感じられた。
 そんな彼女と、無愛想な沈黙を守りながら隣を歩くマサキ君。二人の姿を見ていて、
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