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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方
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なくはないけど、この辺りの敵はまだ弱いし、数も一体だけみたいだから一度肩ならしをしておくのもいいんじゃないかな」
「……わ、分かりました」

 できるだけプレッシャーにならないように言ったつもりだったが、シリカちゃんの表情は険しい。彼女が若干硬い動作で短剣を抜き敵のいる方向に構えた後、わたしは数歩後ろに下がった。
 わたしたちは今日の戦闘において、できるだけシリカちゃんにダメージを稼がせる、敵が複数の場合は一体を残してわたしとマサキ君で排除する、ただし危険と判断した場合即座に介入し、もし撤退する場合はわたしとマサキ君でシリカちゃんが緊急転移する時間を稼ぎ、彼女の転移を確認してからわたしたちが脱出する、といったことを今朝のうちに取り決めていた。これはパーティープレイでは敵に与えたダメージ量に比例して与えられる経験値が増加するためで、この層のMobから支払われる経験値程度ではレベリングの足しにもならないわたしたちよりもシリカちゃんが受け取った方が効率的であり、また彼女のレベルが上がれば道中の安全性も増すと考えてのことだった。
 シリカちゃんは短剣を身体に引き付け、半身になって敵の出てくるであろう背の高い草むらを睨んでいる。つい先ほども言ったように、街からほど近いこの辺りに湧出(ポップ)する敵はかなり弱く、現在のシリカちゃんのレベルでも単体なら十分安全に倒せる程度。まして昨日装備をかなり強化している彼女なら一撃で敵を(ほふ)ることも難しくない。ここは簡単に撃破して、少しでも緊張が解れれば……と、楽観視していたのだが。

「ひ、ひぃっ!?」

 シリカちゃんが短剣の切っ先を向けていた草むらがガサリと揺れ、深い緑色をした二本のツタが蛇のような動きで草を掻き分け現れた瞬間、彼女の背中が傍目にも分かるくらいに大きく震えた。その向こうではツタが空けた隙間からツタと同色の、しかしツタよりもずっと太い茎とそれに乗っかった黄色い花が、茎の根元で枝分かれした複数の足を器用に使いのっしのっしとシリカちゃんににじり寄る。そして目の前で怯える彼女を獲物と認定したのか、花の化け物が左右に大きく裂けた口元から無数の牙を覗かせつつ気味の悪いニヤニヤとした笑みをシリカちゃんに向けた瞬間、

「ぎゃ、ぎゃあああああ!? なにこれえぇぇぇぇ!? き、気持ちワルうぅぅぅぅ!?」

 と、フィールド中に彼女の絶叫が響き渡った。当然ながら花の怪物がそんなことを気にかけることはなく、口の端からねっとりとした唾液を地面に(こぼ)しながらシリカちゃんに近付いていく。

「や、やあああ!! 来ないでえぇぇぇ!!」
「だ、大丈夫! その敵は凄く弱くて、花の下の、ちょっと白っぽくなってるところを攻撃すれば簡単に倒せるから!」
「だ、だって、気持ち悪いんですうぅぅぅ!!」

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