アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方
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階層のフィールドダンジョンだけど、彼女にとってはレベルの追いつかない高階層で、しかも大事な家族の命が懸かっているのだ。気を遣い過ぎるくらいで丁度いい。
「はいっ。エミさんも、マサキさんも……ピナも一緒にいてくれますから。それに、実は、ちょっと楽しみでもあるんです」
「楽しみ?」
「昨日、エミさんが四十七層にはお花がいっぱいだって教えてくれたじゃないですか。わたし、今まで一度も四十七層なんて行ったことないので、見るのが楽しみなんです。……あ、別に、ピナのことが二の次とかじゃないですよ。でも、そんなに綺麗な景色だったら、きっとまたピナと一緒に見たいって思うはずだから……そうしたら、今日は絶対成功するぞ、って、一層気合いが入ると思うんです。……何か、ちょっと変なこと言ってますね、わたし」
「……ううん」
……この子は、強い。孤独から逃げ回っていたわたしなんかより、ずっと。
照れ笑いを浮かべたシリカちゃんを見て、わたしは素直にそう思った。同時に、どうしたら、彼女のように強くなれるだろうか、とも。
そうしているうちに、三人は転移ゲートの直前までやってきていた。周囲では、攻略に出かける、あるいは帰って来た人たちが、それぞれ正反対の方向へ流れていく。
「……行こうか」
「はいっ!」
わたしはシリカちゃんと一度笑顔を交わし、目的の場所を丁寧に告げた。目の前を真っ白の光が覆い――やがて、ゆっくりと晴れ渡って徐々に世界が色づいていく。第四十七層主街区《フローリア》は、柔い陽光を浴びて誇らしげに咲いた花々でわたしたちを出迎えた。
「うわあ……!」
赤、黄、紫――世界を埋め尽くさんばかりのありとあらゆる色彩に、隣のシリカちゃんから歓声を上がった。そのまま小走りで近寄り、薄青い矢車草に似た花の前にしゃがみこむ。
そんな彼女に連れられるように、わたしも広場の花たちに目を向けた。パンジー、スミレ、シクラメン……色も形も全く違う花がレンガに囲まれた花壇を覆っていて、その色彩や形状の違いがまるで精緻に計算された模様のようにお互いを引き立てあっている。よく、一面に花が咲いている光景を「花の絨毯」と言うけれど、最初にそう呼んだ人の気持ちがよく分かるような景色だった。
――そう言えば、こうやってのんびり景色を眺めたの、いつぶりだったっけ……。
自分の孤独を紛らわすため、景色に目をやる余裕すらなかったこれまでの一年間を思い出し、ちょっぴり感傷に浸る。
一昨日の一件さえなければ、きっとわたしはそれまでと同じ生活を送っていたのだろう。誰かと一緒に居る、だからわたしは独りじゃない。そんな言葉を自分に向けて投げつけるためだけの生活。けれど何の因果か、結局わたしは独りだったと気付いてしまった。……ひょっとしたら、気付いていたのを認
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