第二十八話 横須賀の思い出その六
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「あそこには悪い思い出なんて一つもないよ、ただな」
「ただ?」
「喧嘩はよくしたな」
このことは苦笑いで言うのだった。
「男の子とさ」
「男の子とですか」
「ああ、ちょっかいかけてくる悪ガキ連中とさ」
「そうした子は何処でもいますね」
「怪我はさせない様に注意したけれどさ」
「それでもですね」
「喧嘩はよくしたな」
このこともだ、薊は伸子と朱美に話した。
「一度に何人も相手にしたことあるよ」
「そういえば横須賀は暴走族多いわよね」
朱美がここで横須賀の特色の一つを話に出した。
「週末は絶対に出て来るのよね」
「ああ、そうだよ」
その通りだとだ、薊も朱美に答える。
「中にはタチ悪いのもいるよ」
「暴走族と揉めたことは」
「あるよ」
あっさりとだ、薊は朱美に答えた。
「ブラックドラゴンっていう連中とさ」
「大丈夫だったの?」
「十人位いたけれどさ」
「その十人となの」
「ガチで揉めて喧嘩になったよ」
薊はその過去のことを明るく笑って話すのだった。
「中三の時に」
「勝ったのよね」
「ああ、威勢はいいけれどヘタレた奴ばかりだったからさ」
「薊さんは無事だったのね」
「ちょっと左手を殴られただけだよ」
それだけで済んだというのだ。
「全員叩きのめしたら、三回位やりあってさ」
「三回もなの」
「一回で懲りずにさ」
それで、というのだ。
「三回も挑んできたんだけれど」
「三回共だったのね」
「叩きのめしてさ」
そして、とだ。薊はその時のことを笑いながら朱美と伸子に話していく。
「三回目でやっと降参したよ、向こうが」
「だったらいいけれど」
「暴走族、しかも十人も一度に喧嘩するなんて」
二人にとっては驚くべきことだった、何しろ二人共喧嘩やそうしたこととは縁のない普通の女の子だからだ。
「薊ちゃんらしいっていえばらしいけれど」
「危ないですよ」
「喧嘩はしない方がいいわよ」
「怪我とかしたら大変ですから」
「あたしも自分からは仕掛けないよ」
喧嘩は自分から売らない主義だというのだ。
「ガキの頃からそれは守ってるよ」
「そうですか」
「ああ、けれどな」
それでもだというのだ。
「売られた喧嘩は買う、それでやるからには」
「絶対に勝つ」
「それが先輩のポリシーなんですね」
「ポリシーなんて大層なものじゃないかも知れないけれどさ」
それでもだというのだ。
「そうした考えだよ、実際にな」
「そうなのね」
「ああ、それで今はさ」
こう朱美に話していく。
「喧嘩はしてないよ」
「売って来る相手がいないから」
「だからですね」
「まあそうだな、とにかくあたしは自分からは仕掛けないよ」
喧嘩、それはというのだ。
「絶対に」
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