第二十八話 横須賀の思い出その五
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「じゃああたしもか」
「とはいってもね」
「トップに立たないと駄目ってことでもないか」
「そう、そこはそれぞれよ」
「じゃあそれぞれのペースで頑張れば」
「それでいいと思うわ」
こう薊に話すのだった。
「私はね」
「だよな、あとあたしさ」
ここでだ、薊は朱美と伸子にこんなことも言った。
「神戸好きになったから」
「それでなのね」
「ずっとなんですね」
「ここにいたくなったよ」
この神戸にというのだ。
「いい街だよな」
「ええ、そうよね」
「ここいい街ですよね」
朱美と伸子も薊のその言葉に笑って頷いた。
「何かと便利だしね」
「綺麗ですしね」
「夏は涼しいし」
「山も海もあって」
「まあ冬はそのせいで寒いけれど」
「いい街ですよ」
「ずっと横須賀にいたけれど」
孤児院においてだ。
「ここもいいよな」
「横須賀もいい場所ですか」
「ああ、あそこも凄くいい場所だよ」
薊は優しい笑顔になって伸子の問いに答えた。
「海があってさ、いつもそれが見えてて」
「先輩って海好きなんですね」
「色は赤だけれどさ」
それでもだというのだ。
「海は好きだよ」
「そうなんですね」
「夏は泳げるし」
そのこともあってというのだ。
「自衛隊の船も見えたりして」
「いいんですね」
「しかも美味い店が多いんだよ」
「あっ、そうなんですか」
「横須賀中央駅の前とかさ」
駅を降りて大通りに出る、その左右と周りの碁盤の目の様になっている道々に美味い店が多いのである。
「そこに行くといいよ」
「そうですか」
「まあ神戸は好きだけれど」
それと共に、という口調での言葉だった。
「あたしの故郷はっていうとさ」
「やっぱり横須賀ですか」
「ああ、あそこだよ」
そこしかないというのだ。
「横須賀なんだよ」
「だから特別な思い入れがあるんですね」
「いいところだよ」
懐かしむ優しい顔だった、薊の今の顔は。
「また戻って院長さんに挨拶もしたいしさ」
「いい院長さんだったんですね」
伸子は薊のこれまでの会話を思い出して言った。
「それもかなり」
「ああ、本当にさ」
いい人だったとだ、薊も笑顔で話した。
「あんないい人そうそういないよ」
「それでその院長さんにですよね」
「ああ、育ててもらったんだよ」
孤児として拾われそれから今に至るまで、というのだ。
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