外伝:それが自分だから
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ことだもん」
「よろしー!じゃ、いくよ!お兄さんはこっちに合わせてね!」
曲名も言わないまま演奏を始めるとはちょっと不親切じゃないか?と思いながらも、俺はイントロですぐに何の曲を演奏しようとしているのかを察して彼女に旋律を合わせる。
みんなが言っている一般論なんて、所詮はきれいごと止まりじゃないか――
その結果手に入れたそれは本当に価値のあるものなのか――
欲しかったものでもないのなら、そんなものは捨ててしまえ――
本当に好きなもの以外には本質的に価値がないんだ――
価値の無いスクラップに、自分の価値が押し潰されるのが一番怖いんだ――
だから他人のことばなんか気にせず、ふてぶてしく人生を闊歩しよう――
「病気が回復に向かってからのユウキには……こう、生きてやるっていう気迫みたいなものを感じると思わない?」
歌を聞きながらアスナはキリトにそう訊ねた。
「そうだな。前から陽気に振る舞ってはいたけど、いまのユウキはあの頃とは何か違う。前は夢の続きを歩いてるみたいだったけど、今は先の見えない道を愚直に進んでるみたいだ」
「そしてその勢いが余って倒れないように、ブルハさんの歌声がそれを下から支えてる」
「わかるな、それ。案外相性いいんだな。あの2人」
そんな二人の会話の内容は、ブルハの耳にまでは届いていない。
デュエットの曲でもないのだが、とにかく合わせて歌う。
ユウキの歌声には他人の心を揺さぶる力強さがある。病魔と散々闘って、多くのものを失った彼女だからこそ持てる重みのようなものがある。俺にはない魅力だ。
籠る感情は直球。私はこんな人間で、こう生きる。
ただそれを伝えたいだけ。だからこそ、生命力に満ち溢れている。
(案外、音楽に向いてるのかもな)
小さくも頼もしいその背中に続くように、ライブは続いた。
ユウキの初舞台という形になったが、結果は大盛況。きっと遠くにいってしまった彼女の家族にもこの力強い歌が届くだろう。そして、ひょっとすればミスチルにも――と、つい考えてしまいながら。
ユウキと初めて組んだ演奏。お前が始めた名前もないバンドの、今の姿。見ればあいつは何といっただろうか。イナズマにはその気になれば聞かせることも出来るが、その時はミスチルに、演奏の終了後に一言感想を貰いたい気分になった。
俺は存外、あいつに今の俺達の歌を聞かせたかったらしい。
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