第七十話
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せてもらうことにする。
「じゃあお願いしますよ。目的地は――」
「アンドリュー氏の喫茶店かい? あそこは良い雰囲気だよねぇ」
慣れない手つきでカーナビに目的地を入力していくと、後ろから覗き込んでいた菊岡さんがそう呟く。……既にリサーチ済みというか、接触済みらしい。無表情の運転手の方に一礼すると、俺たち三人を後部座席に乗せた高級車は《ダイシー・カフェ》に向けて発進していく。
――結論から言うと、積もる話など特に無かった。
「……一条くん、君の彼女が重いんだけど」
菊岡さんがそっと耳打ちして来たその言葉は、たいそう女性に対して失礼な物言いではあるが、今はとてつもなく同意したい。もちろん里香が物理的に重いとか、そういう訳ではなく、里香から発せられる車内の空気が重い。『不機嫌なオーラ』とでも言うべきか、そんなオーラが車内に充満していた。換気したい。
「君たちの空気が悪いからわざわざ軽い感じで言ったのに、何か喧嘩でもしたのかい一条くん」
「軽い……感じ? いつも通りじゃ」
「今はそんなことより車内の空気が問題だよ」
ヒソヒソと男同士の何の身にもならない話し合いが続く。里香の機嫌が悪い原因は、十中八九先程の須郷のことだろうが……思った以上に糸を引いている。俺ももちろん苛立ってはいたものの、この危機を目の前にしてはそんなことは些細な問題である。
「……男同士で何ヒソヒソやってんのよ、翔希」
「いや何でもないさ、なあ一条くん」
にこやかに菊岡さんが対応すると、里香は少しばかりこちらをジト目で睨んできたものの、すぐにそっぽを向いて車外へと目を向ける。そんなこんなで移動中は生きた心地はしなかったが、無事に《ダイシー・カフェ》へと到着すると、菊岡さんを含めた三人は車外へと降りた。
「……菊岡さんもここに用事で?」
「ハハ。公務員だって、たまにはこういう雰囲気の良いところでサボりたい時があるんだ」
そんなことを笑みを浮かべながら言ってのけると、三人で《ダイシー・カフェ》の店内に入っていく。相変わらず独特の雰囲気を醸し出している店内では、まだ正午にも達していない時間帯ということからか、他の客の気配は感じられない。店内にいたのは厳つい顔をした店主と、黒い服を着た少年のみだった。
「いらっしゃい。ショウキに……おっ、久しぶりだなリズ。それに……?」
「……菊岡さん? なんでここに?」
俺と里香がここに来る、ということは先にキリトがエギルに言っていたらしく、エギルは簡単に対応する。しかし、俺たちと一緒に怪しい笑顔を浮かべる人物のことは知らないのか、その強面が怪訝な表情をしていた。対して、キリトは菊岡さんのことを知っているらしく、どことなくうんざりとした苦笑
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