第七十話
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「ああ、これから僕は結城家に養子縁組みをすることになっているけど……まだ慣れなくてね」
養子縁組み。親戚という考えは、あながち間違いでは無かったらしい。しかし聞いたのはこちら側だが、随分初対面の俺たちにペラペラと話してくれる。そんな俺の疑問の視線を受けたのか、結城伸之はこちらに苦笑いを返す。
「明日奈を助けてくれた君とキリト君には感謝しきれないからね……ああそうだ、キリト君にも言ったけど、君たちにも言っておかなくてはね」
「話?」
キリトは毎日この病室に来ているとのことで、この結城伸之という青年と先に会っているというのは不思議ではない。しかし、キリトが明日奈のことについて、何も言わないというのは不自然だが……はてさて。どのような話だろうか。
「養子縁組みをするという話だったけどねぇ……僕はこれから、明日奈と結婚するんだ」
「結、婚……?」
――結城伸之が放ったその一言に、俺は言葉を失い、里香は震える声で聞き返す。明日奈はまだ目覚めていないというのに……?
「ああ、結婚さ。いつ目覚めるかも分からないんだ、こうして綺麗なうちに花嫁姿にしてあげた方が幸せだろう?」
……嘘だ。目の前の男からは、曲がりなりにも明日奈を幸せにしてやろう、というような気概はまるで感じられない。先程までの雰囲気はまるで感じさせず、ニヤニヤと――何が楽しいのか――笑っており、やはり蛇のようだ。
「アスナがまだ意識不明だっていうのに、そんなこと!」
「出来るさ。明日奈の義父さんは納得しているし、まあ事実婚ということになるのかな?」
里香が詰め寄っていくものの、結城伸之は飄々とした態度でその詰問をかわしていく。里香と俺が何も言うことが出来なくなったのを見ると、大事そうに明日奈の肌に触ると、スーッと自らの手を滑らせていく。
「……ッ! やめなさいよアンタ!」
「おっと、怖い怖い。病院では静かに願いたいねぇ……そうだ、良いことを一つ、教えてあげよう」
里香の脅迫めいた声色の警告を受けるものの、どこ吹く風、といった様子で結城伸之は明日奈の身体を物色するように触っていく。我慢出来ずに里香が飛び出すと、結城伸之の手をはたいて無理やり明日奈の身体から離させる。すると結城伸之は、やはりニヤニヤと笑いながら大げさに人差し指を一本立て、俺たちに『良いこと』を宣言した。
「僕は『レクト』のある部署の主任を勤めていてねぇ……フルダイブの研究部門をやっているんだ」
それがどうした――と思ったものの、頭の中で彼が言ったことを反芻する。彼が今言った《レクト》という会社は、総合電子メーカーとして名を馳せている。SAO事件の責任や賠償の為に破産した《アーガス》に代わり、SAOサーバーを管理する仕事を一手に
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