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SAO−銀ノ月−
第七十話
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俺の手を握り拳にするが、今の俺に何が出来るわけでもない。……その無力さもまた、怒りに転用されてしまうが。

「……アスナ。絶対助けるからね。……絶対……!」

 里香が明日奈の手を握って決意を口にする。明日奈の手を見ると、血が通っているかも分からないほど肌が白くなっていた。……アスナとはあまり個人的に付き合いは無かった自分でも『こう』ならば、恋人と親友だったキリトにリズの気持ちはいかほどのものか。……想像に難くない。

 キリトへの恩返しというだけではない。アスナの為にも、キリトの為にも、里香の為にも――この事件は絶対に解決しなくてはならない。

 そう静かに決意を固め直していると、ガチャリ、という音とともに背後のドアが開かれ、スーツ姿の青年が病室へと入って来た。眼鏡に仕立ての良さそうなダークグレーのスーツと、やり手の官僚のような印象を受ける男だった。

「君たちは、『向こう側』での明日奈の友人かい?」

「……はい」

 柔らかな物腰でその青年は笑いかけてくると、まるで何かの劇のように大げさにこちらに歩いてくる。『向こう側』の事情を知っているという事は、明日奈の関係者――なのは間違いないとして、親戚か何かだろうか?

「そうか、嬉しいよ……きっと、明日奈も喜んでくれているだろう」

 青年は明日奈が横たわったベットの側面に移動すると、里香が握っていない方の手を小さく握っていた。だが、寝たきりの明日奈を労るような握り方ではなく、まるで芸術品の値踏みをしているかのような手つきだと感じた。

「……そんな死んだみたいな言い方っ……!」

「おい、落ち着け里香」

 そして青年の言葉に眉間に皺を寄せながら、里香が青年を睨みつける。今にも殴りかからんとしそうな雰囲気が里香から噴出し、手遅れになる前に何とか慌ててその肩を抑えた。

「でも、翔希……!」

「翔希……とすると、君が『ショウキ』くんかい? あのキリトくんと茅場晶彦を止めたっていう?」

 先の失言を取り消すこともなく、青年は里香が言った俺の名前である『翔希』に反応する。キャラネームとリアルでの本名が同じの為、少しややこしく聞こえるが、青年は俺を『ショウキ』であるか尋ねている。どのように広まっているか知らないが、一応「はい」と答えると、青年は大げさに両手を広げた。

「そうか、君がか! ……おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名前は須郷……いや、結城伸之と言うんだ。今後ともよろしくお願いするよ」

 結城伸之と名乗った瞬間――青年の顔が歪む。細められた糸目は開いて三白眼になり、人の良さそうな顔はまるで蛇のような印象に変わる。しかしそれも一瞬だけのことで、結城伸之は再び元の笑顔に戻ると、こちらに向けてニコニコと微笑んで来る。

「……須郷?」
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