暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
殺し屋は身近なところにいるという皮肉をケンジは知らない
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腕が綺麗な八の字型を作り出した事で腹の衝撃を免れた。とはいえ、コンクリートに肘先から手の平まで思いきりぶつけたので、痛みはそれなりにあった。
一体誰なのかと顔を横にずらすと、そこで相手と目が合った。
猫さながらのくりっとした目の奥には僅かに鋭利さを孕んだ瞳を輝かせ、化粧っ気の無い肌は陶器のように染み一つない。茶髪がかったナチュラルボブは緩やかなウェーブを描き、白い首周りを流れる。そんな読者モデルでもやっていそうな八方美人がケンジの至近距離にいた。
「……」
「……」
ケンジ達を中心に、昇降口付近を取り巻く空気が凍り付いた。誰も言葉を発さず、動きもせずに二人の様子を凝視している。まるで運命的な出会いをした男女の行方に固唾をのんで見守るかのように――
しかしそれは紛れもない幻想だった。
「……ねえ、アンタ誰に向かってぶつかってきてんのよ!こっちは忙しいのに、こんなクソどうでもいい出会いなんかいらないのよあたしの時間返せバーカ!」
「……。……え?」
「何ボケーっとこっち見てんの?ホントにキモいんですけど。あ、もしかしてあたしの美貌に見惚れちゃってる?でも残念!あたしには心に決めてる運命の人がいるの。アンタみたいな童顔童貞ヤローには微塵も興味ないの!」
「え、あ、はぁ」
マシンガンのような勢いで連射される暴言に、ケンジは怒るどころか単純に驚いてしまった。見た目はかなりの美人で、男子が二度振り向くのは確実だろう。しかし口を開けば、その印象は鉄球で破壊されるビルよりも早く瓦解する。
――こんなにギャップを感じる人、初めて見たかも。
減らず口から生まれるたくさんの罵倒を眼前で浴びながら、ケンジはどこか遠い場所を見つめるようにしてそう呟いた。
女子は自身が相手の腰辺りに乗っている事に気付き「あーごめん、影薄くて身体見えなかった」と言ってから立ち上がった。ケンジもそれに習う。
そこで再び訪れた空空漠々たる時。互いに目を合わせながら、何か口にする事もない。何か行動を起こすわけでもない。そんな奇妙な感覚を前にした男女は互いに運命を感じ――
だが、そんな甘い季節は二人の間に存在しない。
「もしかして、このまま踏まれたかった?アハッ、そうよね。アンタめっちゃMっぽい顔してるもん」
「いや、別に踏まれたくなんて……」
「あっ、もしかしてあたしのお尻に触れちゃってドキドキしてる?ホンット男って見っともない」
「むしろブヨブヨしてたっていうか……」
しまった、とケンジが慌てた時にはもう遅かった。彼は一度女子から目を逸らし、一拍置いて目を合わせる。そして彼は本物の恐怖を味わった。
昔から、美人が怖い顔をしているのが何よ
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