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乱世の確率事象改変
黒のマガイモノ
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 幾多もの皺が刻まれた手は、ゆるりと顎から垂れる白い髭を一撫で……もう片方の空いていた手は、瞼を閉じたままでぽりぽりと頭を掻く。
 眉毛も髪の毛も真っ白に色が抜け落ち、生まれてから重ねた年数を表す。
 そのご老体の目の前で、雛里は慎ましやかに膝を揃えて座り、真剣な眼差しを送り続けていた。
 後ろには軽装を纏った兵士が二人。黒に心が染まった彼の部隊である。

「どうしても必要……鳳雛様はそうおっしゃるが、わしは反対じゃ」

 顰めた眉が不快感を微細に示し、片目だけ開いて見つめられ、雛里は……きゅ、と拳を握った。

「お願いします」

 たった一言。
 雛里は説明の後に、頼み込むことしかしていない。否、まだしない。
 双眸に宿した光は知性と悲哀を含ませて。後ろの二人は……少しばかり震えていた。雛里の行おうとしているモノが、彼が大切にしてきたモノを穢すギリギリの行いであると理解している為に。

「この街の長老であるあなたに許して頂きたいんです。白馬の王に親しかった人は……もはやこの街の民しかいません。だからどうか、お願いします」

 また、ペコリとお辞儀を一つ。
 七乃との交渉の次の日、雛里が向かったのは街の長老でも一番発言力の高い老人の家であった。
 秋斗が出て行ってからは夜な夜な娘娘にて会合を開き、各区画の改善点等々を、草の根活動の如く繰り返してきた白蓮。
 そんな彼女を民と繋いで来た最たる人物がこの老人であり、他の区画、余所の街や近辺の村々の長老達との懸け橋にもなっている。そしてあの河北動乱で白蓮に手紙を送り、民の総意を伝えたも彼であり、ある意味で彼女を救い出した一人と言ってもいい。

「……わしはこの街で長いこと生きておる。白馬の王が初めてわしらに挨拶を行った時や、初めて外敵の防衛に赴いた時すら、記憶に新しい程にのう」

 懐かしむ視線を宙に彷徨わせ、思い出の中の彼女を頭に浮かべて、長老は懐古のため息を付いた。
 白蓮はこの街で生まれ育ったわけでは無い。伸し上がったのがこの街。言うなれば華琳にとっての陳留とほぼ同じ。
 幾度も防衛に赴きながらも、終わらない仕事に泣きごとを言いつつ街の改善に勤しんでいた……それを長老は、生きてきた年数で蓄えた知識で読み取っている。
 飛び切り豊かとは言えないが穏やかで温かい街になった。のんびりとお茶を楽しめるような場所が出来た。それもこれも、白蓮がこの街を初めの家としたからだ。
 自分の生涯を生きてきたこの場所で、時には孫娘を見るように長老は白蓮の成長を見てきたのだ。秋斗が来てから後は関わる事が増えたのだが、甘くて優しい彼女に苦笑してしまった数も、信頼と感謝を込めて楽しく笑った数も計りきれない。

「故に、わしは関靖様がどれだけ我らが王に尽くして来たかを知ってお
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