黒のマガイモノ
[10/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
大事な約束。袁家に壊されてしまった、叶わない願い。
麗羽と白蓮が旧知の仲で、いがみ合っていても互いに認め合っていた事を彼らは知らず。だからこそ、桂花の言葉は、友の仲を引き裂く袁家に対する憎しみを加速させた。
「私怨私欲は戦に持ち込むな……誰かが言うでしょう。きっと、武人も、軍師も、王でさえも、皆がそう言うのは間違いない」
抑えるように紡がれたのは戦の理。守らなければならない心の在り方。しかしながら、そんな簡単に収まるほど、人の心は綺麗には出来ていない。
「でも……大切なモノを泣かせた奴等への怒りは、この胸の内で燃えてる」
応、と幾つか声が上がる。
涙を流して、唇を噛みしめて、顔をくしゃくしゃに歪めて……ほとんどの兵士達は耐えていた。
燃える瞳に熱さを感じて、この少女の怒りは本物だと理解した。
「白馬義従……私が肯定してあげる。あんた達のその心。殺したいと願うその悪しき想い。取り返したいと願うその純粋な想い。全部ひっくるめて認めてあげる。だから、聞きなさい」
静寂に風が一陣。運ばれて吹き抜けたのは……きっと寂しさ。心に空いた穴が、寂しいと喚いていた。
彼らも桂花も、大切なモノが居ない事が、寂しくて仕方ない。
求めるモノは違えども、共有された想いはほぼ同じ。目的は……間違いなく一致していた。
「あんた達の誇りは幽州を守る事にこそある……それでも、耐えられなくて集まった。悔しくて此処に来た。取り返したくて駆けてしまった。なら……この戦でだけは、白を辞めなさい」
雛里が考えた口上は、この兵士達には絶大な効果を発揮する。
自分が言うのは嫌だったが、白馬義従と想いが似ているから、桂花はそのまま口に出した。
「白の勇者達よ……黒に染まれっ」
怒号が上がった。怨嗟の声が。今は、今この戦だけは、自分達は黒になるのだ、と。主の友と同じになるのだ、と。
忠義への裏切りだ。それでも主を返して欲しい。
誇りへの侮辱だ。それでも平穏を返して欲しい。
もう彼らは、抑えられない。求めるのはたった一人。共に戦った戦友で、一緒に過ごしてきた家族で、皆を愛してくれた主。家を自らの手で取り戻して返したい相手は……北方の英雄、白馬長史。
白馬義従達に対して、桂花は黒布を腕に巻かせた。共に戦うなら、黒と共に在れるように、と。
物資輸送の指示を出した後に解散を伝えて……口を引き裂く。
――憎しみは連鎖するモノよ。もう止められない。あんた達はこれから劉備を憎まずにいられない。白の大地を黒には染めない……けど、白と黒を混ぜ合わせて、灰色になればいい。そうすれば華琳様の為に幾つも手札が増やせるんだから。
雛里と桂花が引こうとしている糸が何の為であるのか、白の勇者達は知る由も無
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ