黒のマガイモノ
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い。此処までなるとは、夕も思っても見ないだろうから。
――白馬義従その数……一万五千強。神速に比肩出来る騎馬部隊は、袁家との野戦では私と雛里が大きな指示を出すだけでいい。
指揮する王と片腕は居ないが、精強さは言うまでも無く。外敵からの防衛を繰り返してきた彼ら自身が指揮すれば彼女達までとは行かずとも相応の戦術が打てる。
公孫賛の癖は雛里から聞いている。可もなく不可もなく、頑強にして堅実な用兵。あの霞でさえ手古摺った程なのだ。袁家の騎兵が相手取るには不足に過ぎる。
攪乱と陽動、奇襲に追撃。騎兵特化の部隊を加えれば戦術の幅が段違いになる。
問題はやはり物資。如何に官渡と密な連携が出来るかがカギとなるが……これだけ大量の馬が手に入ったなら、その問題も徐州との往復を分けて行えば容易に解決出来る。
歩むこと幾分。やっと目的の場所に着いた。
居並び、ぎらぎらと殺気立った目を輝かせる白馬義従を見据えて、桂花は大きく深呼吸を一つ。
キッと睨みつけて、声を上げた。
「よく集まってくれたわね。白馬の義に従う勇者達」
彼らは知らない。曹操軍が白蓮との同盟を断った事を知らない。
言わずともいい。これは乱世だ。万が一、知っているモノがいようとも、共通の敵を打ち滅ぼす為ならば、手を貸す事はあるだろう。それほどに、彼らの怨嗟は根強く深い。憎き敵は袁家であるのだから、裏切りは万に一つも有り得ない……雛里が持ってくる斧さえあれば、より確実に。
一斉に桂花に視線が突き刺さった。
早く早くと急かすように見えるのは、主への忠義からか、それとも心に持ち寄る憎しみ故か。
「袁家を殺したい? 殺したいでしょうね。私も同じだわ」
おお、と誰かから声が漏れた。
濁った瞳は鈍色に輝き、同志を得たのかと歓喜に燃える。たった一つ共通した同じモノを持つだけで、警戒と疑念を下げて連帯感を持たせられる群集心理の一手。
「面白い話をしてあげる」
駆り立てるには、心を燃やさせるには、仮初めでも絆を繋がせるには……この方法が一番。だから桂花は言葉を紡ぐ。
「私の友達が袁家に居るんだけど、母親を人質に取られてるから戦わなくちゃならない。その子は逃げられなくて……殺し合いをしなくちゃダメになった。大事な、大事な友達。でもずっと待ってた。ずっとずっと待ってたわ、この時を……袁家を打ち滅ぼして、友達を呪縛から救い出せるこの時をっ」
気付けば、歯を噛みしめていた。声が大きくなっていた。普段なら、男の前でそんな姿など見せたくないというのに。
悲哀が揺れる瞳は、兵達の目にはどう映るか。大きくとも震える声は、心に響かないはずがない。
彼らの主は友への親愛を大切にしていた。あの三人が夜天に願った話は、彼ら全てが聞いたことのある
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