黒のマガイモノ
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がいやがんだ。だから白馬義従の気持ちもよぉく分かる」
「もし、同じような状況なら、御大将の剣があるだけで俺達はきばれるってもんさ。心が震える、力が湧く、あの方の想いを感じられる。そうすりゃ俺達は御大将が居なくても黒麒麟としてより強く戦えるってな。だからほら、白馬に向かう時の鳳雛様の言葉次第って事で……どうよ?」
憎しみの指標では無く、奮い立たせる心の支えとしてだけに使うのはどうか。
牡丹なら、怨嗟に染まった白馬義従の心に一番の白を感じさせられる。それなら、死者の想いは汚されない。言い方一つで大きく違った。
「……どうか、私達に彼女の斧をお貸しください」
また雛里が頭を下げる。決して上げない顔には、涙が滲んでいた。
雛里は気付いてなかった。彼らが白馬義従と同じであると。自分と同じく憎くて仕方ない相手が居て、皆が慕った“彼”はもういない。
もし、彼が死んでいたなら、剣が一つ近くにあるだけで、彼らも雛里も黒麒麟の角を手に入れられる。戻らなかったなら……共に戦う今の彼を見て、黒麒麟と鳳凰を遣り切れる。彼の想いを思い出して、憎しみを飼い慣らし、彼の望んだ世界の為に戦う事が出来るだろう。
雛里は心の内で兵士達に感謝を述べ、
――でももう一つ、彼らしい斧の使い道がある。ごめんなさい……私は、うそつきです。
そして、皆に懺悔を零していた。ズキリ、と胸が痛んだ。今の彼に対して、白馬義従に対して、街の者に対して、牡丹に対して……嘘をついた痛みであった。
「……ならばよかろう。関靖様の斧を預けよう。ただ、くれぐれも彼女を貶めんで下され」
「……っ、ありがとうございます」
震えながら礼を言った雛里は顔を上げず。痛む心を抑え付けて、緩く吐息を吐き出す。
戦場を住処とする冷たい黒麒麟を思い出そうとしても、出てくるのは優しい彼ばかり。
自分の考えた手段を黒麒麟も使うだろうと信じているのに、記憶の中の彼を傷つけている気がした。
雛里は知らなかった。彼が白蓮に怒った事を。
牡丹の髪留めを付けた白蓮を認めず、片腕と混ざらずに憧れられたままの白蓮で居て欲しいと願った事を。
雛里は自分の中の黒麒麟しか見えていない為に、彼がこの世界に望んでいた未来の絵図を読み取れない。
故に、自分が黒麒麟のマガイモノでしかないと、気付くことは無かった。
†
二つの伝令が桂花の元に届けられていた。
一つは風からのモノ。予定通り白馬と延津を放棄する、とのこと。
もう一つは……彼女が敬愛してやまない華琳から。五百の麒麟を都に向かわせろ、とのこと。
――五百……ってことは、徐州で夕を退けた徐晃隊を使うおつもりなのね。なら、帝を洛陽から私達の街に連れ出す、か。張勲の件があ
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