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乱世の確率事象改変
黒のマガイモノ
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 “仁徳の君”と“覇王”は相容れない。黒き大徳と白馬の王が争うのは避けられない。なら、彼の元で戦う白馬義従は……誰に従い、誰を殺せばよいのか、と。

「殺せんよ。あやつらには同じ釜の飯を食った仲間を真ん前からは殺せん。お主らはどうじゃ? 鞍を並べて戦った仲間、生死を共にしてきた戦友たちを殺せるか?」

 不意に、長老が雛里の後ろの兵達に声を掛けた。同意を求める視線を向けていた。
 兵達は悩む……事無く、表情を引き締めて短く息を吐いた。
 哀しい事に、戦場を知らない長老は、尋ねた相手がどれだけ異質な者達か知らなかった。

「御大将の命令とあらば隣に並ぶ友であろうとも切り捨てましょう」

 綺麗に重なった二人の声に、長老はあんぐりと口を開け放つ。
 黒麒麟の身体にそのような質問は無意味である。誰であろうと迷うことなく、彼の敵として立ちはだかり、平穏の世を作る邪魔をするなら……死、あるのみ。
 雛里は苦笑を一つ零す。黒に染まった彼らの在り方が、誰にも理解されないのは分かっていた。

「長老さん、主を既に定めている白馬義従は彼らみたいにはなれませんよ。だから必ずこの地を守って貰います。この大地だけは、黒に染まってはダメなんです」
「……何か考えがおありなのか?」

 疑問を向ける表情は少しだけ恐れが滲む。友であろうと殺すと言われては、彼に対してさえ疑念が浮かんでいた。

「袁家が滅びても白蓮さんは戻ってこないでしょう。あの方は友達を大切にする人です。旧知の友を見捨てて家に帰るなんて……そんな不義理な事を出来る人ではないので皆さんが王として慕い、認めています」

 長老は髭を手で撫でながら思考に潜るも答えは出ない。
 友と敵対の道を選んだのに、と雛里の胸にビシリと痛みが走るも、息を吸って押し込んだ。

「それに、こちらがどんな策を以ってしても、伏竜は仁徳の君の為に白蓮さんを手放さないでしょう。なら彼に出来る事はなんでしょうか」

 遠く、宙を見つめる雛里の視線は穏やかにして甘く、まるで誇らしい夫の帰りを待つ妻のよう。

「友の愛した大地を少しでも良くするのが彼の望み。壊さず、黒に染めず、あの頃の暖かさをそのままに豊かにして、乱世の果てで白蓮さんに返したい……だから、彼は白馬義従を一兵たりとも受け入れません」

 例え雛里自身が、この幽州の地をも騙す大嘘つきになろうとも、嘗て彼が心より望んだ平穏の時間を再び。それが雛里が幽州に望むモノ。

――その為に、今の彼を“私が”嘘つきにする。黒麒麟を演じさせるのは私だから、想いの重責を軽減させられる。そうすれば、彼は間違っても身を滅ぼす程の想いを宿す事はない。

 人々は英雄を望む。今の彼ではなく黒麒麟を望み続ける。どちらにしろ彼は黒麒麟として皆の前で生活し
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