黒のマガイモノ
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泣きそうな顔で孫娘を想うように語られて、雛里の表情がより一層曇る。
死者の想いを穢す、それは彼が一番したくなかった事。
しかし、違う……と、心の内で呟いた。
――彼はそんなに綺麗じゃない。例え関靖さんが望もうと望むまいと、彼は他人を利用して乱世を捻じ曲げる一手を打つ。それをしてしまう人だから壊れてしまった。
この地に居た時の秋斗しか知らない長老では無理も無い。
乱世を終わらせる為に必要とあればなんでも利用する黒麒麟を誰よりも知っているのは、雛里しかいないのだから。
ただ、雛里が彼の全てを理解しているかと言えば、否である。
「……彼と私は別行動なので、これは私が考えた手段です。斧を持って行っても、彼が使うかどうかは分かりません」
きっと記憶があったなら使うだろう、とは雛里も言わない。
自分の卑怯さに気持ち悪さが込み上げるも、“嘘つき”になると決めたから……と斬って捨てた。
「……持って行きたいのでしたら徐晃様を連れて来て下され。わしはあの方から直接言われない限りは首を縦には振らん。あの方がどれだけ袁家を憎んでおられるか分からんから、な」
「白馬義従の生存率を上げる為にも、どうか……」
「大馬鹿者共が自分の意思で向かったのじゃ、覚悟の内じゃろうて。其処に不純物を混ぜれば後々どうなるか……あなたも分かっておいでじゃろ?」
例え才無くとも、積み上げた年月から長老の知恵は深く広い。あらゆる人々を見てきた経験は何物にも得難い宝である。
見くびっていた、とは雛里も思っていない。お年寄りと触れ合う機会など、村や町で出来る限り人々を助けて励まして来た劉備軍ではざらにあった。だから、言い当てられても揺るがない。
「そうですね、憎しみの増幅から純粋だった守りの想いに大きなズレが生じます。敵を打ち倒し、彼らの目的が達成されても、結局は主が居ないという空虚な事実に打ちのめされ、より強い渇望が新たに生み出されるかと。この地を守るべき彼らから……黒に染まるモノが出てくるでしょう」
敵を憎み、殺しても主が戻ってこなかったなら、結局は自己満足の理由付けでしかなかったと時間が経てば皆気付くであろう。
そうなれば、彼らが一番求めた主を取り戻す為にと、彼の元に吸収されるは必然。一度決壊してしまった想いの堰は白馬の王でしか止められなくなる。
曹操軍としては優秀な騎馬隊が手に入る事は嬉しい限りだが、彼らが白蓮や嘗ての仲間達を前にして戦えるかと言われれば否。敵に対して躊躇いを持つ兵は、華琳の元で戦う秋斗が率いる部隊には相応しくない……と雛里は考えている。
長老は白蓮が桃香の元から離れないと確信しており、互いが向かい合えば不利益にしかならないだろうと説いているだけだが、それでも雛里の考えの大まかなモノではある。
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