黒のマガイモノ
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られない。
「……彼が望んでいてもダメですか?」
「バ、バカを言いなさるな!」
一喝。遂に怒りが弾けた。
急な大声にビクリと身体を引くつかせるも、雛里は力強い目で見つめ返す。
ハッと我に返った長老は、コホン、と咳払いを一つ。
「……徐晃様は望まんはず。絶対にそんな事はせん。そんな……“関靖様の斧で皆を扇動しよう”など、絶対に望まんはずじゃろうに」
ありえんよ、と表情を歪めて顔を背けた。雛里の言う通りに求めたとしても信じられなかった。
雛里の策は……牡丹の斧を白馬義従を導く為の指標にする事。ただそれだけの策である。
たかが武器一つで何を言っている、と誰もが思う。しかし今回だけは、白馬の片腕の力が絶大な効果を発揮する状況となっていた。
率いる部隊も、民の心も……そして外部への楔も、全てが斧を持ち寄るだけで捻じ曲がり、昇華出来る。
実際、雛里が見た限りではこの地の民も白馬義従も危うい状態にあった。行き過ぎた信仰、と言い換えてもいい。
自ら命を投げ捨てて主を逃がした片腕が彼と共に戦っている……それがどれだけ、この地の民を勇気付ける噂として語られるのか。憎き敵を殺されたモノの武器で叩き斬る様は、どれだけ皆の心の澱みを晴らす昏い願望なのか。そしてこの戦の後にこの地で暮らすべきはずの彼女に……どれだけ辛い一手を差し込めるのか。
破裂寸前の想いが溢れるこの大地は、これから華琳が治めるには些か手に余る。例え彼がいようとも、覇王に従わせるにはもう一手追加で打った方がいいと雛里は判断していた。
士気向上、怨嗟のガス抜き、未来への糸。大きな効果が期待出来るのはこの三つ。
――ただ、その為に利用される関靖さんの斧は、白馬義従が持つ憎しみを増幅させる為の装置に過ぎなくなる。彼女が何を思って死んだかも、何のために戦ったかも、全てを無視して。
「徐晃様は人の想いを大事にしとった。死者の憎しみを利用するなど、あの優しい方がするはずも無い。何より、関靖様がそのような行い、望まれるはずも無いんじゃ」
声が震えていた。長老は牡丹を知っている。いや、自分なりに思い描く牡丹が心の内に居る。
自分の知っている牡丹なら、彼に怒鳴って張り飛ばして、何をバカな事しようとしてんですかっ……と言うに違いない、と。
雛里は眉を顰めて、長老の話に聞き込んでいた。
「もう……休ませてあげては如何かの。あの子は守り切った。自分の愛する主を守り切った。それでいいじゃろう? 仇討ちは生きているモノが澱みを晴らす為にするモノじゃ。心を割り切る為に、これから新しく一歩踏み出す為に……。
それにの、あれほど安らかな死に顔をしていたあの子が、憎しみをそのままに死んだとは思えん。あの子の誇り高き死を……穢さんで下さらんか」
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