第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十六日・夜:『屍毒の棘』
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饐えた空気の荒涼たる暗がりの路地裏から、人いきれと光の満ちる大通りへと。息も切れ切れ、這々の体で。
「ハァ、フゥ……よし、逃げ切ったな。やっぱり直線移動は楽でいいや」
「あぅ、はわわ……つ、対馬さんの能力、応用効きすぎですよぉ……これだから、高レベル能力者って……羨ましいなぁ」
袖で汗を拭う嚆矢は、涙子を抱えたまま走り出る。勿論、壁の中から。それを見た通行人は始めこそ驚いたが、直ぐに興味を無くして歩き去っていく。尚、能力の行使による反動でその脳には多大な負荷。頭痛と吐き気、倦怠感が身を包んで離さない。
しかし、達成感は有った。最優先の目的である、今、腕の中でブー垂れている涙子を守る事は達成できたのだから。
──危うかった、な……在り方を間違えるところだった。俺は……対馬嚆矢は、『非在の魔物』だ。人を殺し、食らい啜った、都市の暗部に巣食う化け物なだ。それ以上でも、以下でもない。
只の人殺しの分際で、英雄気取りとは恐れ入る。危うく、悪鬼どころか凡夫にすら成れないところだった。
だから、いつものように、ヘラヘラと。何でもなさげに、痩せ我慢だけで。
ほとんど、涙子が何を言っているのか。己も、何を言っているのか分からないような状態で。雲を歩くような心地のまま。
「さて、それじゃあ送ってくよ。此処からなら……柵川中の寮はバスで三駅先か」
「あ、ありがとうございます……じゃなくて対馬さん、い、今の……!」
「全く、悪い娘だなぁ、涙子ちゃんは。こりゃあ、飾利ちゃんと寮監さんに怒って貰わないと。是非とも常盤台の寮監さん並みに怖い人であって欲しいね」
「そ、それだけは〜〜!」
だからこそ、得たものに価値がある。価値無きものが価値有るものを得るのなら、意味は十分だ。そうだ、この平穏な日常こそが掛け替えの無いもの。『勝利』だとか『最強』などの空しいものより、こんな他愛の無いものの方が、遥かに得難いのだから。
下ろした涙子に軽口を叩き、その関心を『異常』から『日常』の方に戻して。近場のバス停の時刻表を確認、まだ便が有る事を確認して。
「いいね、真っ直ぐ寮に帰ること。さもないと、風紀委員の権限で……?」
「わ、わかってます、わかってますから……あ、でも、その」
腕章をヒラヒラさせながら口にすれば、涙子は慌てたように何かを口にしようとして……恥じ入るように俯く。そんな彼女に、微笑みながら────マネーカードを渡した。
「はい、コレ。快気祝いがわりに、ね?」
「……何から何まで、ごめんなさい……」
それにすっかり恐縮してしまった涙子の、項垂れた頭に掌を置く。とは言え、流石に撫でたりはしない。ぽん、と軽く当てたくらいだ。それだけでも、彼女の艶やかな黒髪は
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