第6話 回転木馬ノ永イ夢想(後編)
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ん」
島が一通、封筒を差し出した。
「さっき、明日宮君にお客さんが来てて……」
「客? 誰でした?」
「伊藤ケイタさんって言ってたよ」
クグチは顔をこわばらせ、硬直した。
「今はいないって言ったら、この手紙を渡してって」
「いつくらいでした?」
「九時すぎくらいだったかなあ」
クグチは封筒をちぎるように開けて、中の手紙を引き出した。
〈6月29日 中央掲示板前 フレアの後で〉
文面はそれだけだった。クグチはそれ以上のもを手紙から読みとろうとした。フレアって、岸本が言っていたあれのことか?
6月29日。
明日じゃないか。
「島さん」
島が緊張する。
「ラジオを聞いてますか?」
「えっ?」
「前岸本さんが言ってたフレアについて、何か続報ありましたか? いつ来るかわかりますか?」
「わかるけど……」
口ごもるので、クグチは「早く言え」と迫りたい衝動をこらえた。
「明日だったかな」
「明日のいつ」
「午前五時前くらいだとか……」
入り口を塞ぐように立っている島にぶつかって、クグチは部屋を飛び出した。
あさがおに会わなければならなかった。
会ってどうするのか、どうなるのか、自分がどうしたいのか、何もわからなかった。あなたの持ち主は死んだのだと、あなたは電子の幽霊だと告げるのか? どこかに逃がすのか? 何とかして匿い、保存するのか?
「姉さん」
自転車を漕ぎながら、試しにそう呼んでみた。呼んでみても血の繋がった家族だという実感はわかなかった。
行けばわかる。行けば、きっと何とかなる。そう信じた。
あさがおは、その廃電磁体は、世界で一番静かな家の仏間で、仏壇に白い花を供えている。呼ばれていることも知らずに。
※
あさがおへ。手紙を書けなくてごめんなさい。お母さんはこの頃ひどい場所に監禁されていました。ああ、おぞましいことだけど、連中は私を欺くためにあなたの偽物を面会に寄越したのです。ご丁寧に手の傷までも再現して。私はそのふざけた女にとびかかり、本物のあなたがどこかを問いつめようとしたのに、あいつらが、あの看護師どもが、それより早く私に飛びかかって、私を牢に閉じこめた。牢の中には床と言わず、壁と言わず、あの小人どもが張りついて私を嘲笑っていますから、私はこれと戦わなければなりません。小人どもは臆病で、私が指を銃の形にして、バァンバァンと大声を出すだけで、びっくりして逃げていくのですが、奴らは真夜中でも来るのですから、私は一日中バァンバァンと銃を撃たなければなりません。これは大変疲れることで、やっと牢から出された後も奴らの私に対する迷惑行為と悪意はいやますばかりで、私がお前に手紙を出すことすら許さなかったのです。奴らは私の手紙があなたに悪い影響を与えると言うのです。自分たちの
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