暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜美しい夢〜
第四十六話 真意
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


帝国暦488年  5月 12日  オーディン  ブラウンシュバイク公爵邸  フレーゲル内務尚書



我々が困惑しているのが分かったのだろう。ブラウンシュバイク公が話し始めた。
「現在帝国、反乱軍はそれぞれ二百万人程の捕虜を抱えているのです。それを交換して頂きたい、そうお願いしています」
「二百万? そんなに居るのか」
リッテンハイム侯が呆れた様な声を出した。皆も驚いている、二百万と言えばかなりの人数だ。それより人口の少ない有人惑星も少なからず存在する。

「毎年戦争をしているのだ、そのくらいにはなるかもしれんな」
「むしろ少ないでしょう。宇宙空間では酸素が有りませんから人は簡単に死にます。一会戦で数百万の人間が戦う事を考えるとそれほど多いとは言えません」
ルンプの呟きにシュタインホフ統帥本部総長が答えた。なるほど、一会戦で十万として年二回戦争が有れば一年で二十万の捕虜が発生する。十年で二百万だ、となると一会戦あたりの捕虜はもっと少ないという事か……。

「その殆どが下級貴族と平民です」
ブラウンシュバイク公の言葉に皆が押し黙った。
「……捕虜を交換する事で平民達を宥めようというわけか」
「それも有ります。それも有りますが義父上、政府が自分達を見捨てる事は無いと理解すれば兵の士気の向上にも繋がります」
皆が頷いた。リヒテンラーデ侯が“なるほど”と呟いている。

「良かろう、公の説得だけでは平民達も納得しがたい部分が有るやもしれん。捕虜交換を行う事でそれが解消するならやる価値は有る。どうかな、軍務尚書、統帥本部総長」
リヒテンラーデ侯が二人の元帥に視線を向けると二人が“同意します”、“異議は有りません”と答えた。侯が他の参加者に視線を向けた。

「財務尚書としては積極的に賛成します。捕虜交換に多少の費用は発生するでしょう。しかし捕虜を交換して貰えば二百万人の納税者、消費者、生産者として期待できます。捕虜のままでは何の役にも立ちませんからな」
ゲルラッハ子爵の言葉に応接室に微かな笑い声が起きた。正直過ぎると思ったのかもしれない。しかし事実では有る。

「では軍の方で……」
「お待ちください」
リヒテンラーデ侯の言葉をブラウンシュバイク公が遮った。公の顔からは表情が消えている。応接室に微かな緊張が起こった。
「捕虜交換は軍主導ではなく政府主導でお願いします。押し付けるつもりは有りません。実務は軍で結構です。しかしあくまで政府主導という形でお願いします」

はて、如何いう事だ? 捕虜交換、軍主導ではなく政府主導? 公は嫌がっているわけではない、実務は軍でやると言っている。私だけではない、皆が困惑を顔に浮かべた。
「如何いう事だ、エーリッヒ。何かあるのか?」
大公が問い掛けると公は軽く息を吐いた。
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ