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駄目親父としっかり娘の珍道中
第65話 蚊だって生きている
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露骨に苛立たしく響き渡るあの音が三人の耳元に響いたのだ。
 その音を耳にした直後であった。三人がお互いに向けて放たれた筈の拳は突如軌道を逸れ、壁に向かいめり込んでいた。
 そのめり込んだ壁の隙間からヒラヒラと舞い落ちる落ち葉の如くの勢いで床に落ちたもの。それは紛れもなく羽音の主……即ち蚊であった。

「んだよ、人騒がせな蚊だぜ」
「ったく、ここ最近妙にこいつらが多くていらいらしてくるぜ。只でさえイライラの元凶とも言える奴が側に居るってのによぉ」
「所詮は害虫。近づけば駆除される存在だ。此処にいる銀髪と同じでな」
「おいおい、俺は害虫かよ」

 気が付けばさっきまで煮えたぎっていた憤りの熱もすっかり冷め切ってしまった。
 そして同時に胸に募る疲労感と空しさ。
 もうすっかり三人の中にはこの騒ぎの首謀者を探そうと言う意欲はすっかり消え失せてしまっていた。

「止めだ止めだ。何かやる気失せちまったよ。何で俺達がこんな疲れる事しなけりゃならねぇんだってんだ。とっととあいつら連れて帰るとすっか」
「おぉ、帰れ帰れ。下手人は明日の朝にでも燻りだしてやる」
「そうだな、私も今日は疲れた。ここいらで休むとするか」

 三人共満場一致で下手人捜索を打ち切る事となった。そんな訳でスタート地点でもある近藤の私室に戻ろうと180度振り向いた。
 そんな三人の目に映ったのは、捜索意欲を失くしすごすごと引き下がろうとする一同をとても恨めしそうに見つめる女であった。
 その女の出で立ちは、赤い服に傷みまくりの黒い長髪と言う、正に自分たちが探していた女そのものであった。
 そんな女が今、三人の目の前に立ってさも恨めしそうに三人を睨みつけている。
 まるで、今にも『お前ら全員呪い殺してやる』とでも言いたそうな顔つきで。

『こ………こんばん………わ―――』

 目の前に現れたそれに、三人の思考は停止し、口から出たのはこの言葉のみであった。
 その直後で、屯所内に三人の絶叫にも似た悲鳴が木霊するのであった。




     ***




「今、何か聞こえませんでしたか?」

 新八の耳が何かを捉えた。
 音だった……と、言うよりも寧ろ悲鳴、もしくは絶叫に近いそれが響いたのだ。

「気のせいじゃないアルか? 私は何も聞こえなかったアルよぉ」
「俺のログには何もありやせんねぃ。っつぅ訳で聞こえてやせんぜぃ」

 神楽や沖田は聞こえなかったらしい。試しに他の人間にも聞いたが皆同じだった。
 となるとただの空耳だったのであろうか。まぁ、そうなのであれば別に良いのだが。

「ほれ、次はお前の番だぜチビ」
「チビって言うな!」

 沖田の悪態に対し心の叫びを叫びつつ、ヴィータは沖田の持っていた手札の中か
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