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提督の娘
第五章
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第五章

「それからでいいですから」
「最後までですか」
「私、母からいつもこう言われてきたんです」
 言いながらだった。自分の母のことも話してきたのだった。
「食べ物は残したらいけないと。言われてきています」
「御母上にですか」
「私の母は日本人でして」
 ここで彼女の顔立ちの理由がわかったのだった。だからイギリス人離れした日本人のものだった。そうしてそのうえで話すのであった。
「日本では食べ物を残すことは極力避けるんです。勿体無いということで」
「勿体無いですか」
「そうなんです。ですから」
「ふむ」
 ダスティはその言葉を受けてであった。彼は日本のそうした文化や思想は聞いたこともなかったし知ってもいなかった。全くの初耳であった。
「日本のですか」
「ですから」
 また話す彼女だった。
「待たせてもらいます」
「そうですか。それでは」
 その日本の考えを受けてそうかと納得するところがあった。彼は祖国にも海軍にも強い誇りを持っているがそれと共にだ。他の国の文化や考えに偏見は少ない男だった。流石に完全にないとはいかないがそれでもかなり公平な考えの持ち主ではあるのだ。
 だからそれを聞いてもだった。それもその通りだと頷くのだった。そうしてそのうえで応えて確かな声で頷いていくのだった。
 それから紅茶とそのお菓子を食べ終えた。そのうえで彼女を基地に案内していった。
 とはいっても時間はすぐに過ぎ去った。彼は基地の出口で美女と別れた。出口では軍の基地らしく守衛が立っており銃さえ構えていた。彼等はダスティに対して敬礼をしてそのうえで美女を見送るのだった。
「それでは」
「はい、今日は有り難うございました」
 あらためて言う彼等であった。
「それではまた。それでですが」
「はい?」
「貴方の御名前ですが」
 尋ねてきたのはこのことだった。
「何というのでしょうか」
「はい、ダスティ=ブレイクです」
 そう名乗る彼であった。
「階級は少尉です」
「そうですか、少尉さんですね」
「そうです。今年に士官学校を出たばかりです」
 このことも話す彼だった。
「そうですか。それではですね」
「はい。何か」
「私の名前はサエコ=マックソードといいます」
「サエコさんですか」
「はい、そうです」
 その名だと答えるのであった。
「日本の名前でして」
「御母上の祖国のですね」
「はい、母は今はイギリスにいます」
 つまりこの国にというわけである。
「父と共にです」
「そうですか。御父上とですね」
「はい」
 ここでも素直な澄んだ声での返答だった。
「その通りです」
「わかりました。マックソードさんですね」
「サエコで御願いします」
 こう返すそのサエコであった。
「名前で」
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