祈る者
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ノンはすでに泣き止み、今はシオンに顔を埋めている。
「私ね・・・、人を、殺したの」
「それは、五年前の話か?」
シノンは肯定し続けた。
「そう、五年前、東北の小さな街の郵便局で起きた強盗事件。報道では犯人が局員の一人を撃って、自分は銃の暴発で死んだってことになってたんだけど、実際はそうじゃないの。その場にいた私が強盗の拳銃を奪って、撃ち殺した・・・。私は11歳だった・・・もしかしたら、子供だからそんなことが出来たのかもね。そのときに負った傷はすぐに治ったけど・・・治らないものもあった」
『心、か・・・』
「私、それからずっと、銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。銃を見ると、目の前に殺したときのあの男の顔が浮かんできて・・・怖いの、すごく・・・」
「ただし、この仮想世界だけは別だった・・・」
シオンは徐に口を開き、その言葉にシノンは頷いた。
「だから私は思ったんだ。この世界でいちばん強くなれたら、きっと現実の私も強くなれる。あの記憶を忘れることができるって。なのに・・・さっき死銃に襲われたとき、発作が起きそうになって、すごく・・・怖かった・・・」
シノンが言い終わると、シオンも一呼吸置いてから言った。
「俺も・・・」
「?」
「俺も、人を殺したことがある・・・」
「えっ・・・」
「たぶん、お前より多くの人間を殺した。《ソードアート・オンライン》というゲームの中でな・・“」
その言葉にシノンは一昨年から去年にかけて騒ぎとなった呪われたVRMMOのタイトルを思い出した。
「俺とキリトはそこで生き抜いた、いわば《SAO生還者》ってやつだ。勿論、その死銃もな・・・」
「そいつとは・・・」
「戦ったよ。無論、命の取り合いをな・・・。結果は、まぁ横槍が入ってそれっきりだが、あのまま続けてたら、俺が負けていた・・・」
「・・・・・」
シノンはその事実に言葉が出なかった。しかし、次にシオンが発した言葉はそれを超えていた。
「俺は多くの人間をそこで殺し、あげくの果てには“自分自身を殺した”」
「自分を・・・殺した・・・!?」
「信じられないのも無理ないか。俺は、一人の男を殺すために、“全てを賭け”、“己を捨てた”・・・」
シオンの頭には遥か昔、剣を交え、自分の手で殺した殺人鬼が過っていた。
「そいつに言われたよ、『お前じゃ誰も守れない。目の前で仲間が無惨に死んでいく様を見るだけだ』ってな。今考えてみれば全くその通りだったよ・・・」
「でも、あなたは私を・・・」
シオンは首を横に振り、「あれは運が良かった」とだけ言って、小石を投げた。
「俺は、“夜叉”や“鬼”になれても“ヒーロー
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