第一話 あの夏
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だ。
球は高め内角よりに外れボールとカウントされた。
電光掲示板には158km/hの表示が出た。
俺が今日投げた最速の記録とタイだ。
応援席からは驚きの声が上がっている。
延長12回で158km/hだ、驚かれても無理はない。
だけど俺は納得していなかった。
158km/hでは駄目なんだ。
彼女と青葉と約束したからな。
赤石がボールを投げ返しながら打席の三島と何か話している。
会話の内容までは聞こえないが……きっと、今何球投げてんのかわかっているのか?
とか言っているんだろう。
3球目。外角低めいっぱいに直球を投げ込んだが、キィーンと球にバットが当たった甲高い音が聞こえ、白球は一塁線に飛んだ。
わずかに切れてファールになったが危なかった。少しでも甘く入っていれば本塁打になっていてもおかしくはなかった打球だ。
さすがは超高校級の打者。《天才》三島敬太郎。
人の顔を、どうでもいい奴の顔は絶対に覚えない東がたった一度会っただけで覚えたほどの奴だ。
その才能は間違いなく『超高校級』だ。
電光掲示板に視線を向けると158km/hと表示されていた。
さっきと同じだ。
今と同じ投げ方では駄目だ。
もっと速く。もっと足のステップ幅を広く。
制球よりも今は、今だけは速さを。
4球目外角低め際どいコースを狙ったがボールになった。
5球目。真ん中高めに外れてボールカウントになった。
さっきよりも制球力は落ちた。
これでフルカウントだ。
この一球で勝負は決まるか。
打たれて逆転か。
相手側のベンチ前では竜旺のエース。及川卓郎がピッチング練習をしている。
次の回、13回表の俺達の攻撃に備えているのか。
やはりセンパツ優勝投手は違った。
先程、俺に本塁打を打たれたのにもかかわらずまだ投げようとしている。
並大抵の精神力ではない。
三島が打つ事を信用しているのだろう。
こっちに最強の四番、東がいるように彼らには目の前相手、三島敬太郎がいるのだから。
お前達の思い通りになんかさせてたまるか……。
俺は、俺達は甲子園に行く!
それがグランドに立てない、マウンドに上がれない、月島青葉との約束で……。
『舞台は超満員の甲子園!』……今は亡き月島若葉が最期に見た夢なのだから。
全ての想いを込めて、俺は手に持つ白球を捕手赤石のミットめがけて投げ込んだ。
放った球は白い閃光となって赤石が構えるミットに収まった。
「ボ、ボール!」
審判は迷いながらそう告げた。
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