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逃がした魚
第一章
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第一章

                 逃がした魚
 成人式。俺はこの日が来るのを何とも思わずに待っていた。
 ただ一つ歳を取るだけだと思っていた。他の何だというんだと思っていた。
 酒が飲める、もう飲んでいる。高校二年の時から普通に飲んでいる。今じゃ立派な酒豪だ。日本酒、それも辛口がお気に入りだ。つまみは豆腐が好きだ。
 煙草が吸える、興味はない。煙草は吸わない。ダチは何人も吸ってるが俺は興味がない。酒はともかく煙草の何処がいいのか本当にわからない。
 そんな俺だから成人式なんて只の恒例行事とばかり思っていた。他の何でもない、まあ仕方なしに出てやるだけだった。本当にそれだけだった。
 大学の入学式の時に着ただけのスーツをまた出して着る。何か匂いがする気がした。
「虫食いとかねえよな」
 最初に気になったのはそれだったがそれはなかった。色も変わっちゃいない。それをチェックしてとりあえずは安心した。それから家を出て式場に向かった。
 何か式場では俺と同じスーツの奴等がゴロゴロとしていた。何でもない、よく見れば俺のクラスメイト達だ。幼稚園から一緒だった奴もいる。そいつ等がスーツに着替えて来ていたのだ。制服姿ばかり見慣れていたからスーツ姿は新鮮だった。中身は変わっていないがそれが印象的だった。
「よお」
「ああ」
 中学で一緒だった畑中と挨拶を交わす。多分向こうも俺と同じことを考えているのだろうと思いながら。
「何かあまり変わらないな」
「学ランがスーツに変わっただけだな」
 俺は笑ってこう言った。学生服を着ていたのはほんの少し前に思える。それ程大して変わってはいなかった。俺も今目の前にいる畑中も。何も変わっていなかった。
「そうだな、何か他の奴もな」
「そうだな」
 俺はそれに相槌を打つ。他の奴等も一緒の学校だった奴ばかりで知ってるのばかりだ。見れば本当に変わらない。少なくとも男はそうだった。
「女の子もそうかな」
「案外そうなんじゃねえの?」
 畑中は軽くそう言葉を返してきた。
「だってよ、高校卒業してから。ええと」
「まだ二年も経ってねえよ」
「そうだよ、そんだけだぜ。あまり変わっていないさ」
「そうだよな」
「そうそう、そんなに変わるわけないって。見ろよ」
 そう言いながら側を通ってきた女の子を一人指差す。中二の時一緒のクラスだった娘だ。奥田さんだ。何かセーラー服がそのままスーツになった感じだ。本当に変わらない。
「あいつだってあまり変わっていないじゃないか」
「あら、言ってくれるわね」
 その話を聞いて奥田さんは顔を俺達に向けてきた。少しムッとした顔を作ってこちらを見据えてきた。
「これでも私結婚したのよ」
「嘘っ」
 俺も畑中もそれを聞いて思わず声をあげた。これには本当に驚かさ
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