第一章
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れた。
「本当よ。ほら、その証拠に」
ここで左手を見せてきた。見ればその薬指には。紛れもない証拠がそこにはあった。
「これでわかったでしょう?」
「本当だったんだ」
「それで今は主婦よ。まだ三ヶ月だけどね」
「結婚、ねえ」
「もうそんな歳かあ」
「もうって二十歳じゃない」
彼女はまた言った。
「結婚だってできるし子供だっている娘もいるわよ」
「子供!?」
何か話がさらに俺にとって信じられない方向へいっていた。何か訳がわからなくなってきた。
「そうよ。私はまだだけどね。横田さんとか」
「ああ、横田さんね」
彼女とは一緒のクラスになったこともあまり話をしたこともない。けれど悪い印象は持ってはいない。何か大人しくてしっかりとした印象は持っていた。
「あの娘が」
「そうよ。一人ね」
「横田さんも来てるんだよね」
「ええ、流石に子供は連れて来てないけれど」
「だろうね、やっぱり」
「それは幾ら何でもね」
やっぱりこうした場所に子供連れは何かとまずい。だからこれはわかった。だがそれにしても。もう子供がいる子もいるのが何か信じられなかった。
「他にも結婚した子とかいるんだよね」
「石橋君とかね」
「ああ、あいつも」
何か頬っぺたの赤いやたら口の悪い奴だった。あの憎たらしかったあいつも結婚して奥さんがいると思うと別世界に来た気持ちになった。
「近藤君も」
「あいつもか」
幼稚園から一緒だった奴だ。痩せて色の白い奴だ。あいつも結婚したかと思うとこれまた別世界に来た気持ちになる。何か馬鹿やってるのは俺だけに思えてきた。目の前に一緒にいるツレだって同じだろうにどういうわけかそう思えてくるから不思議だ。どっちにしろもうそういう歳なのは自覚せざるを得なかった。
「他にも。いるけど」
「ああ、もういいよ。何かタイムスリップした気持ちになったから」
俺はそう言って話を止めてもらった。
「何か俺って全然変わってないんだな」
「そうね、変わってないね」
しかもそれをはっきり言われた。余計に気分が悪くなった。
「言ってくれるね」
「だって本当に変わってないから」
「何時から」
「小学校の頃から」
「って全然変わってないってことかよ」
「そうね、何か」
「これでも背は伸びたぜ、結構」
「それでもよ。中身がね」
「きついな、何か」
「まあまあ。それはそうれでいいじゃない」
「そうかな」
何か奥田さんの方がお姉さんみたいだ。同じ歳の筈なのに。けれどこれが結婚して人生経験を積んだということなのかも知れないとも思った。学生と主婦ではその重みが違うのも当然だ。
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