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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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たん夕子」

「戦闘が膠着し始めた。そろそろテロリストが冷静さを取り戻して、怒り狂い始めるわ。
 そうなると……」

「……夕子!」

 ムラサキが、ダムの提頂を指差した。
 そこにはニッカポッカを着た男が、ダムの絶壁際に立たされていた。
 あれは人質にされていた、発電所の職員だ。
 銃撃戦の後、テロリストが人質をあんな場所に立たせる理由は、一つしかない。
 ぽん、と。
 人質の男が、突き落とされた。

「〜〜〜〜〜〜〜ぁぁ!」

 悲鳴は山麓に響き渡り、そして肉が潰れる音。
 小河内ダムに、厭な静けさが戻った。
 虫鳴き。川のせせらぎ。それらがはっきりと聞こえる。
 ――と、

《あ、あー……聞こえるかねSATの諸君》

 拡声器で増幅された声が、自然の声を掻き消した。
 人質が立っていたその場所に、代わりにカーキ色の野戦服を着た大柄の男が現れた。

《君たちの上司に伝えてくれ。
これより君たちが一発でも発砲すれば、そのたびに人質を一人ずつ殺す。
 また我々の要求に対する政府の返答が、今から一時間遅れる度にも一人ずつ殺す。
 そして明日六時に我々の要求が呑まれなかった場合は、全員まとめてダムごと爆破する。
 あと四時間だ……早くしたまえ。時間は人の命と等価だぞ》

 言うだけ言って、男は堤の陰に消えた。
 反撃せんと行動を始めていたSATは彫像のように固まる。
 そして、そろそろと撤退を開始した。
 こうなっては現場判断で動くのは無理だ。 
 ひとまず上の判断を仰ぎに司令塔へ戻るのだろう。

「……………………」

 石室の奥歯がきつく噛み締められて軋む。
 彼女たちの位置からは、殺された人質の、赤く弾けた遺体がよく見えた。
 彼は普段通り朝目覚め、家族に見送られ、出勤したことだろう。
 一生懸命働き、そして家に帰って家族に出迎えられる。
 今もどこかに彼を待つ人がいる。
 何事も無く、いつも通りに彼が家の戸を開くのを待つ人がいるのだ。
 そんな人間を、テロリストは単なる交渉の道具として殺した。
 虫のように殺した。
 夕子はテロリストの行為に、憤怒が腹腔に満ちていくのを感じていた。
 それをどうにか抑え込み、無線機の電源を入れる。

「こちら石室。テロリストが人質を一名殺害。現状は膠着しています」
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