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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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の街では異国の言葉はそれほど珍しい物でもない。二人に集まった注意はすぐ霧散した。
「先週武器の買い付けに向かわせた者が消えた。渋谷デモに潜り込ませた扇動家にも、連絡が取れない」
惜しげなく情報を提示する。知られたところで、困ることでもない。
男のポーランド語に、李は言葉を広東語で応える。
「他の組織でも似たようなことが起こってないか探ってみた。北朝鮮のスパイも行方不明者が出ているらしい。だがアメリカやEUは……」
「何事もない」
男の朝鮮語。
「そうだ。どうやら日本政府の敵性組織だけが狙われているみたいだ」
李のフランス語。
「ようやく日本政府が動き出したか。しかし、警察では無いな。痕跡が無さすぎる。それに、調べてみたらいくつかの現場に弾痕があった。それも大口径の」
男のアラビア語。
「弾痕? まさか自衛隊ではあるまい?」
李のロシア語。
「可能性が無くはないが、失踪の規模から数だと考えにくい。表の組織は動けば必ず何かしら情報が出てくるものだが、それらしい物が一切ない。別の、警察でも自衛隊でも無い組織だ」
男のイタリア語に、李は失笑を漏らした。
そして北京語で言う。
「なるほど、なるほどな。日本め、とうとう『そういう組織』を作ったか。……分かった、その筋で情報を集めてみよう」
運ばれてきたコーヒーを一口飲み、李は言葉を日本語に戻した。
「それで、そっちの計画の進行具合はどうだい?」
「人がいなくなったり、一緒に物資が消えたりする以外は、まあ順調だ。資金も必要な人材も、着々と集まっているよ」
「それは良かった。君たちが活躍してくれたら、私たちとしてはとても働きやすくなるからね。何か支援が必要になったら言ってくれ」
二口目でコーヒーを飲み終え、李は席を立つ。
「なら格闘訓練の教官が足りないんだ。すまないがブルース・リーを呼んできてもらえないか」
「さすがに死人を甦らせるのは無理だなぁ。あ、だが一つ面白いものがある。今度持ってきてあげよう」
「新しいオモチャか。嬉しいね」
男は椅子に深々と座ったまま、冷めたコーヒーを呷った。
「これからどうするんだい、御堂?」
「そうだな……」
御堂。四つ目の名前で呼ばれ、男は顎に指を当てて思案する。
「釣りに行く」
「そうか。何か釣れたら私にも御馳走してくれよ」
李は手を掲げて、喫茶店から去って行った。
残された男は、再び悪事について考え始めた。
李に教えた名前は本名だ。
男の名前は御堂文昭。
日本国家の転覆を目論むテロリストである。
国立児童社会復帰センターの運動場。
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