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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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男は悪事を企んでいた。
開放感のある喫茶店のオープンテラスに腰を掛け、秋の陽光を筋骨隆々とした身体に浴びながら、様々な悪事を企んでいた。
明黄に色づいたイチョウ並木をぼんやり眺め、心透く青い空を見上げながら、殺人爆破誘拐密輸、あらゆる悪事を企んでいた。
悪事の計画を次々と脳内で組み立てながら、男はテーブルの上のコーヒーへ、おもむろに手を伸ばす。
と、仕立ての良いスーツの懐から携帯の着信音が鳴る。
コーヒーへ伸びた手を止めて、取り出した赤い携帯電話を耳に当てる。
「もしもし」
電話の向こうの人物は、男のことを『羽柴さん』と呼び、会社の重要案件の指示を乞う。
男は短くいくつか指示を飛ばし、電話を仕舞った。
そしてコーヒーカップに指を掛け、再び携帯の着信音。今度は青い携帯を出した。
「もしもし」
今度の人物は、男のことを『松野さん』と呼び、ある企業の株価が変動したことを告げた。
売って、とだけ伝え、電話を切る。
今度こそコーヒーに口をつけようとしたところに、三度目の着信音。次は緑色の電話だ。
「もしもし」
この電話主は、男のことを『辻野さん』と呼び、彼が所持するビルに大口のテナント依頼が来たことを報告する。
そのまま進めるように告げ、電話を戻した。
「忙しそうだね」
異なる三つの名前を持った男に、声をかける者がいた。
長身痩躯。稲荷キツネのような細く吊り上った眼。十代の若者にも見えるが、三十路を超えた中年にも見える。不思議な容姿を持った男だ。
名前は李明。彼は日本に潜伏する中国共産党の工作員だ。
「そうでもない」
李はウェイトレスにコーヒーを頼み、男の正面に座る。
「立場によって名前を変えているんだろう? もしかして私に名乗った名前も、偽名だったりするのかい?」
それを言うなら李だって偽名だろう、とは男は口に出さない。
スパイが現地の協力者に、一々本名を名乗るなどあり得ないからだ。
まあ別に、本当の名前などどうでもいい。
「それで、何の用だ?」
すると李は唐突に言葉を異言語――ドイツ話に変えて、話を切り出した。
「去年から、うちの工作員が何人か消えている」
李は口元で手を組み、薄い笑みを見せる。が、鋭い切れ長の眼には冷え冷えとした光が灯っていた。
こちらの一挙一動見逃さず、こちらの心内を見透かそうとしているのだ。
「私の仲間もだよ」
隠す必要はないし、むしろ男の方から聞こうと思っていたことだ。
男は正直に、スペイン語で返す。
突然始まった多言語の会話に、周囲の客は一瞬彼らに目を向けた。
だが矢継ぎ早に変わる異言語の会話、その内容を理解できる者は一人もいない。
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