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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
03
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。落書きだらけのその場所に、スクーターが一台隠すように停められていた。

「待て!」

 扇動家は駆けるアザミを眉一つ動かさずに一瞥する。何者か訝しんでいるようだが、動きは止めない。アザミを無表情のまま無視した。いち早くここから逃げることを最優先としている。
 扇動家は素早くスクーターに跨ってアクセルを回し、路地に入って行った。
 追って中に路地に入る。が、すでに先の角を曲がってしまい、姿は見えない。
アザミは目を閉じて、耳を澄ます。デモの騒音に混じって、エンジン音が小さく聞こえた。三時の方向。まだ数十メートル先だ。
 瞼を開き、アザミは脇の塀を踏み台にして、縦方向に大跳躍。二階建ての建物に飛びついた。壁を蹴りあがり、屋根に取りつく。このまま屋根伝いに、スクーターを直線的に追うつもりだ。
 屋根から屋根へ、ビルの谷間を跳び越える。
 屋上を四つほど跳び過ぎた辺りで、下の道を走る扇動家を見つけた。首都高速方面へ南下して、渋谷マークシティ高架橋の下に入った。

「待てって言ってんの……!」

 屋上を蹴り、マークシティの円状屋根へ。
着地で勢いを殺さないように衝撃を膝から逃がし、疾駆。
コンクリートの屋根を踏み割らん勢いで蹴り、加速する。
エンジン音は真下。若干右に逸れた。右折する気だ。
もう一度強烈に踏み込み、加速を重ねる。脚の筋繊維がブチブチ千切れる感覚がある。帰ったら修理だ。
 二度の加速で勢いをつけ、跳ぶ。
二〇メートル以上離れた向かいのビル。その屋上にギリギリ届いた。
 これでスクーターを追い越した。
 そして予想通り、右折して人気のない道に入ってきた扇動家。今なら目撃者はいない。好都合だ。
アザミは膝を追って両脚に力を籠め、また跳んだ。今度は地上。スクーターの眼前を目がけて。
 猫のように空中で体を回して姿勢を制御し、狙ったとおり、スクーターの真ん前に着地した。

「なっ!?」

 さすがに空から少女が降ってこられては、その鉄面皮は守れなかった。
 驚嘆の声を上げる扇動家はブレーキを握るが、制動が効くよりも先に、スクーターがアザミに激突した。が、アザミは、

「ぐ、ぬぬぬぬ!」

 歯を食いしばり唸る。スクーターのレッグシールドに掴みかかって、踏ん張りを掛けていた。義体の膂力が50tの馬力を上回る。スクーターは走りを停めた。

「な……なんだ……?」

 何が起こったのか理解が追い付かない扇動家に、アザミはにっこり笑顔を見せた。
 そして胸倉を引っ掴み、地面へ投げ飛ばす。頭部を固いアスファルトに打ち付けて、扇動家の男は見事に失神する。
 アザミとスクーターの激突音を聞きつけて、周辺の飲食店から何人かが顔を覗かせた。
 デモ行進、暴動、轟音、少女、スクーター、地に伏す男。

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