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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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こんな一方的な暴力を振るえる存在など、あるはずがない。

「お前ら……一体何なんだ……!」

 臓物を絞り出すような苦渋に満ちた問い掛け。
 対して蔵馬は、今日の天気を教えるような何気なさで答えた。

「お前らの敵さ、国家の敵(テロリスト)」





「あのー、クラマさん?」

「…………」

「その、ごめんなさい」

「いいから傷を押さえていろ」

 深夜の首都高速を走る蔵馬のヴェゼル。
運転席には蔵馬がおり、その隣でモモが気まずそうに蔵馬の顔を窺っている。
 現場を処理班に任せ、二人は奥多摩にある本部へ戻る最中だった。
 モモはブレザーを脱ぎ、裂けた肩部に回収班から貰ったガーゼを押し当てている。赤く染みたガーゼを指先で弄び、申し訳なさいっぱいという表情で蔵馬と道路照明灯へ交互に視線を移す。
 今回の作戦は、武器を手に入れようとするテロリストへ奇襲するはずだった。つまり、取引の最中のテロリストを陰から二人で銃撃する手筈だったのだ。
 だが実際は正面からの銃撃戦を大立ち回りである。

「お前もうスカートを着るな」

「そんな……」

 潜入中、モモが海風に煽られて覗いたスカートの中身を、蔵馬が見たとか見てないとかで騒ぎ始めたのだ。そこを哨戒していたテロリストに見つかり、蔵馬は咄嗟にコンテナの陰に隠れたがモモは連行され、あの顛末である。

「ううう……嫌だよぉ……」

 泣きべそをかくモモに、蔵馬は計り知れない違和感を覚えた。
 三十分前まで銃で武装したテロリストを薙ぎ倒していた殺人サイボーグが、今はスカートを着れない不幸を嘆いている。
 いったい何なのだろう、この状況は。
 蔵馬はグラリと傾きそうになる精神を溜息をついて落ち着かせ、

「嫌なら二度と作戦中にあんな真似するなよ。今回の件はお前のパンツの色まで報告書に書くからな」

「…………はい」

「……………………」

「……………………」

 しばらく沈黙が続く。
 ヴェゼルは八王子第二インターチェンジから一般道に降りた。
 赤信号でヴェゼルが停まる。
 蔵馬はモモの足元、グローブボックスを指差した。モモが開くと、中には拳銃の予備マグやティッシュ箱に混じって新品のガーゼと包帯が入っていた。
 信号が青に変わり、エンジンが静かに回る。
 モモはガーゼを替えて包帯を巻き、血の染みたガーゼと包み紙を丸めてスカートのポケットに入れた。
 奥多摩の山道を走りながら、蔵馬はモモを一瞥する。

「お前に出来るだけ長持ちしてほしいと思っている。本当に頼むぞ」

「はい……あの、蔵馬さん。怪我とか、してませんよね?」

「してない。お前の肩は大丈夫か」

「大丈夫です。私は修理できますから」

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