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或る短かな後日談
後日談の幕開け
一 アリス
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く。彼女――少女らしさなど、人間らしさなど。頭部以外に見受けられはしないものの。恐らく、彼女、の背後には。予備のように備え付けられたもう一つの頭。前面のそれと全く同じ顔が、近付き、その側面へと廻りこんだ私へと。首を曲げ、顔を向けて、只、笑い。その様が酷く恐ろしくて、冷たい体、僅かな熱まで奪われ。思わず一度、体を震わせ。
 そんな私を他所に、彼女は。長い腕、アームとは異なる黒く、生物的な腕を広げ。

 部屋の壁、並ぶ棚。その上に置かれた無数の培養槽を叩き落す。まるで、癇癪でも起こしたかのように。連続して鳴り響く硝子の割れる音、水の飛び散る音。落ちる音。それに混ざって。
 柔らかな。培養槽の中身、金属ではない何かが、床へと――


 それは。人間の手。独りでに動き、まるで虫か何かのように。五指を持って這い回る無数の手、手、手の群が。手術室の床へと散らばり。

「っ」

 私達へと、群がる。それは、彼等を外へと放った、怪物にさえ。群がり、足に、体に張り付いて。

 噛まれる。手に、手が、どうやって。痛みこそ無いものの。その嫌悪感から、足に貼りついた一匹を掴み引き剥がし、見れば。
 その手のひらには、裂けるように。牙を備えた口が――

 舌打ち交じりに、私の爪で傷つけながら。床へと叩き付け。この小さな捕食者達を解き放った元凶、怪物へと向き直り。

 跳ぶ。その、頭。不快感、嫌悪感。最早、怒りへと変わりつつある感情。力任せに、その頭部。破壊せんと、爪を。
 振るえど。幾ら、怒りに身を任せようと。その、悍ましき者に対する恐怖は塗り潰せず。その、頭部を無意識に避け、爪は。体を繋ぐ、その肉へ突き立ち。
 爪が埋まる。手の中で得体の知れない肉が潰れ。赤い液体、無臭の――粘菌、血液ではない。その液体が、手を汚し、腕を染め。私の手のひら、腕を通して全身へと伝わるその感覚に。
 吐き気がして。吐くもの等無いと。歯を食いしばり、肉を抉って、腕を引き抜く。

 見た目よりもずっと硬い。叶うならば、更に深く切り裂き、もっと早く終わらせたかったのだけれど。そう、簡単には事は進んでくれはしないらしい。加えて、私の体……私達の体を食む手のひらの群。私が対峙する異形の体にまで齧りついている辺り、敵味方など関係ないのだろう。ソロリティが必至に群がるそれらを蹴り飛ばし……その足には、刃。彼女の履くブーツから伸びた、仕込み刃か。蹴り飛ばし、切り潰しても、この数相手では。

 まずは。この怪物の動きを止め。アリスを連れて逃げなければならない。ならないと、言うのに。
 奴は。怪物は。私を見て、更に。口角を上げて。

「こいつ……ッ!」

 その体に、また。爪を立てる。やはり、深くは刺さらず。浅く抉り、粘菌が噴き出し。焦りが体を焼いていく。
 私
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