後日談の幕開け
一 アリス
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……私は……」
その、敵意も。私の問い、答えに窮し……簡単な質問。自分は何者か、名前は、生まれは、所属する組織は。答えることならば、幾らでも思いつくだろうに。
思いつかないのは。
「……少し。話をする必要があるみたいね。ごめん」
彼女へと向けた銃を下ろし、腰に差す。対する彼女は、まだ。私への警戒を解きはせず。私が先に上げた腕、相手の立場が分からなかったとは言え、性急過ぎたと後悔して。
「いきなり銃を向けたのは謝る。この状況に免じて、出来れば許して欲しい」
「……分かった。私も、聞きたいことがあるから」
自身の肩から伸びた、第三の腕。その腕を見て驚くと共に顔を顰め。顰めながらも、静かに。翳した爪を下ろして、浮かせた腰を寝台へと下ろす。私もまた、彼女に倣って腰掛け。寝台、私の隣に置かれていた……今となるまで気付かなかった。ポーチを腰に回し。軍帽を被る。
「……まず。何か、憶えていることはある? 私の方は、自分に関する記憶は殆ど飛んでしまってるみたいなのだけれど」
恐らく。黒い髪をした目の前の彼女も……思い出せずとも、見覚えのある顔の……彼女も、私と同じ。記憶を失くし、何かしらの技能を植えつけられ。そして、体を……私は、特に。形で言えば、変化の無い体。人の形。しかし。
縫い合わせた跡、血の気の失せたような肌。確かに、恐怖は感じていても。異常なほどに、白い肌。彼女の姿形といい、私達は、恐らく。
「……ネクロマンシー、って知ってるかしら」
答えを返さない、彼女へと問い掛ける。必至に記憶を探る姿、焦る姿。その、人間離れしてしまった見た目だけで判断してしまったことを悔いながら。話を進める。
「死体操作技術。死体に手を加えて生ける屍……アンデッドを作る技術、なのだけれど」
私の話を、静かに。取り乱すことなく聞く彼女。言葉の少ない分、取り乱したりしない分。その感情を窺い難い。
「……言おうとしてることは、分かった。けど……」
私たちが此処に居る理由は、分からないと。声の調子を変えることなく呟き、辺りを見渡す彼女。暗い部屋。扉は一つ。あるのは三つの寝台……もう、一人。掛けられた毛布の中で丸まった……微かに、震える。どうやら、既に目覚めているらしい。
いつから、目が覚めていたのか。私達のやり取りを聞いていたのならば、話は早い、が。
「……ねえ」
右手を伸ばす。一応、左手は銃に掛け。先の事は反省しつつも、やはり。姿の見えない相手に、警戒せずにはいられずに。
手のひらがその、誰かを包んだ毛布に触れて。途端、中に隠れる誰かの体は小さく跳ね。外から見れば、頭を抱えて丸まって居る様子。必死で噛み殺そうとした嗚咽は。
恐らく、少女。私達よりも小さな少女のもので。
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