暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Ready
Ready3 ヘファイストス
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ティアの訓練にならない」

 白い手袋を嵌めた手がユースティアの頬に伸びた。ユースティアはその手に手を当て、うっとりする。

「どうだ」
「まだ討ち洩らしはあるが、概ね以上に及第点。こんだけできりゃじゅーぶんプロの傭兵名乗れるぜ」
「討ち洩らすようじゃまだまだだ。全滅させられるようになるまで継続する」
「……へーい」

 この男はユリウス・ウィル・クルスニク。少女はユリウスの娘でユースティア。いずれ父の遺志を継いで正史に旅立つことが、産まれる前から決まっていた少女。

「どうだ、ユティ。もう戦いには慣れたか?」
「慣れた」

 こっく、と肯きながら答えるユースティアは、育て親の欲目を引いても愛らしい。

「そうか。いい子だ。お前が一つ戦いを経るごとに、とーさまも嬉しくなる」

 ユリウスはぎこちない動きながらも、娘の頭を毛筋に沿って撫でた。これまたユースティアは、ほやんとした表情をした。

「今日はユティ、『外』に連れ出していい日だったよな?」

 ルドガーを救うために不必要な知識や経験は与えない。そう決めたユリウスは、こうして居を人里離れた山奥に構えている。ユースティアの「世界」は木の家と造花の花畑と曇り空、それにアルヴィンとバランが持ち込む知識からの想像だけで構成されている。

 しかし、それではただの、殺しが上手いだけの箱入り娘。

 そのためアルヴィンを教師に、「外」の世界を必要最低限学ばせる。傭兵という、世界を渡り歩く殺戮者ともいえる職業だったアルヴィンにこそ、この「教育」係はふさわしい。

「ああ。――ユースティア。存分に感じて、学んで来い。この世界を、な」
「はい。とーさま」
「イイ子にできたら、帰りにかーさまの家に寄って来ていいぞ」

 ユースティアは目を大きく見開き、笑った。数少ない、ユースティアの表情と呼べるモノだ。

「よかったな、ユティ。――そうだ。どうせなら前にやったカメラ持って来いよ。お前とかーさまのツーショット撮ってやるよ」

 少女はコクコクと肯き、ロッジへ入っていった。

「――アルフレド」
「人間味のない奴は、どれだけ優秀でも恐怖の対象にしかならない。だから『個性』を一つでいいから持っとくべきだ。一番は『趣味』。それがあるかないかで、相手側の好感度はかなり変わる。こっちが妙な行動をしても、相手側が勝手に趣味のための行動なんだと解釈してくれる」
「そこまで考えてあるなら良しとしよう」
「サンキュー。物分りのいい親父で助かるぜ」
「ただし」
「わーってる。なるべく普通の街を歩かせて、すぐクエストに出す。だろ?」
「分かっていればいい」

 与える情報の取捨選択は本当に難しい。
 アルヴィンとしては、この造花の花畑よりもっと眺めのいい場
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ