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三個のオレンジ
第四章

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第四章

「だってさ、皆生まれてから死ぬまで一度は絶対に嘘を言うからね」
「だからなの」
「そうだろ?子供の頃一度は嘘吐くじゃない」
「確かにね」
 言われてみればそうだった。そして今もだ。ソーニャはそのことを思い出して話していた。
「それはね」
「僕だって嘘吐いたことあるよ」
 イワノフは少し真剣な顔で言った。
「一度はね」
「そうだろ?あるだろ」
「そういうことなのね。じゃあ私は」
「すぐに抜かないと大変なことになるよ」
「そうね、嘘吐きだから」
 笑いながらそんな話をしていた。そんな話を続けていた。そしてだ。今度は市場に入った。観光客達だけでなくローマの市民達も行き交っている。恰幅のいいおばちゃんや気さくな笑顔のおじさん達が店の中で威勢のいい明るい声で客を呼んでいる。イタリア語であるがそれでも何となく言っていることはわかる。
 その中を歩きながらだ。ソーニャは隣にいるイワノフに対して言うのだった。
「こうしたところはモスクワと同じね」
「そうだね」
 満足した笑顔で頷くイワノフだった。左右に人が行き交っている。物は色々だ。その中には烏賊もある。あの烏賊だ。それにだ。
 それを見てだ。今度はイワノフからソーニャに言った。
「ねえ」
「どうしたの?」
「ほら、あの烏賊も売ってるし」
「ええ、本当にイタリア人って烏賊食べるのね」
「蛸もあるし」
 見ればそれも並んでいた。赤い身がそこにあった。
「蛸も食べるんだね」
「美味しいのかしら」
「日本人は食べるらしいけれどね」
 イワノフがここで日本人の話を出した。
「あの人達もね。ほら」
「あっ、本当ね」
 アジア系と思われる一組の男女が笑顔でその蛸達に寄っていた。それは完全に御馳走を見ている顔だった。食べ物と認識しているのは明らかだ。
「あれ日本人だよね」
「そうよね。それか中国人か」
「あの言葉は日本語だよ」
 言葉の調子からそれを察したのである。
「だからね」
「だからなの」
「そうだよ。日本人は蛸を食べるからね」
「美味しくなければ食べないってことね」
「そうじゃないかな。まあロシアじゃね」
「ええ、ちょっとね」
 そんな話をしていた。やがて野菜や果物のある場所のところに来た。するとだ。

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