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月の通り道
月の通り道2
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 菜雪は規則違反をした生徒への優等生からの厳しい注意、という典型を想定していたのだろう。やんわりとした忠告で話は終わったことをまだ受け入れきれないのか、呆けた様子で彼の方を見ていた。
面倒だからと気が付かないフリをしていたが、いまだに続くしつこいほどの無言の確認に、優はさすがにいらつきを覚えた。
「だから……」
 文句の一つでも言ってやろうと、視線だけでなく上体を起こして彼女の方に向く。
 しかしその動作とほぼ同時に彼女の表情がぱっと急に変わった。それを見て、菜雪の優に対する不信がなくなったのが分かった。なぜなら――彼女は笑ったからである。
「え……と」
 予想外の事態に、逆に優が言葉をなくす番だった。
快活に笑う、ということではなく、しかし微笑む、と言うほど大人しくもない。一体なぜ彼女は笑っているのだろう。
 優の戸惑いを放って、菜雪は笑顔のまま、バンバンと彼の肩を叩いた。しかも、力強く。
「った……、何」
 攻撃ではないかと思えるほどのスキンシップに、優は驚きと当惑と痛みで顔を歪ませる。
「いやあ、なんか私、峠のこと誤解してた。もっと堅物って言うか、意外と融通が利くんだね!」
「それは……褒めてるのか」
「うん」
 屈託のない笑顔に毒気を抜かれた優は、脱力すると同時に息を吐いた。
「そりゃどうも」
 そのまま体を完全に起こし、菜雪の隣にあぐらをかいて座る。
「でもさ、勉強もできて、真面目でさ、しっかりしててね、優等生なのは立派なことでしょ? 先生にも褒められてるじゃない」
 それからフォローのつもりか、菜雪は言葉を添えた。しかし優は嬉しそうな様子を一切見せることなく、むしろ冷めた目を宙に寄越してぼやいた。
「『優等生』なんて、誰にでもなれるさ」
「ええ? そんなことないでしょ」
 菜雪はその優の変化を謙遜だと捉えたのか、「またまたあ」と言うような調子で返す。その軽さに反して、優の表情も、声色も、温度を下げていく。
「簡単だよ。言われたことだけやっていれば良いんだ。与えられた価値観を飲み込むだけで、何も考えなくてもいい」
「峠……?」
 さすがに優の異変に気がついたのか、自分は何かまずいものに触れてしまったのだろうかと菜雪はおそるおそる尋ねる。
優は不意に溢してしまった感情が、そのまま流れ出て行くのを感じていた。
「言われたことを言われた通りにやるだけだよ。たったそれだけのことなのに、そのくせ『優等生』ぶって、学校の中では『出来る生徒』っていう見られ方をする。『優(すぐる)』っていう皮肉で呼ばれるのも、尤もだと思うくらいだ」
 何もなくていい。むしろない方がいい。「自分」すらない、その方が自分以外のものに楽に従える。例えば、夜中外に出ないように。外に出てはいけないという事実が当然になっていて、そこに不自
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