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月の通り道
月の通り道
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ていたということはあったかもしれない。だけれども、単純に「外に出る」という選択肢そのものが自分の中には存在しなかった。
 何故か。至極単純に、それが「規則に違反する」からだ。
 だからきっと無意識的に、真っ先に選択肢から排除していた。外に出ようという発想が、出て来ることはなかった。
「……あ!」
 突然、隣に座る彼女が何かを思い出したように声を上げた。何だ、と思って優がそちらに目を遣ると、菜雪も寝転がる彼のことを見下ろしていた。暗くてはっきりと見えないが、どうも焦るような、怯えるような色が隠れているように思える。
「ああ」
 その正体を了解した優は、彼女が何かを言う前にその不安を取り除く。
「別に、先生には言わないよ」
 そっけなく言って、合っていた目を逸らし再び上を向く。しかし菜雪はそれを聞いても安心する様子はなく、それどころか固まってしまって、何の反応も示さなかった。無言でただ優のことを見ていた。
 彼女の様子を横目で窺っていた優は、声を失い置物になった菜雪の状態がしばらく続くのを不審に思い、背けていた目を再度合わせた。
 「何?」と尋ねようとして、それよりも先に菜雪がようやく声を発した。
「言わないの……?」
「え、それ?」
 菜雪の動きを止めたのが、自分のその発言であったことを不満に思ったが、仕方がないかという思いがその不満の風船に穴をあけて、しゅう、としぼませた。
 小さな溜息を吐いて、ぼそっと呟く。
「『優(すぐる)』の癖に、って?」
「……あ、いや」
 「優(すぐる)」とは、影で使われている優のあだ名だ。それは優の目の前で使われたことはなく、彼は知らない体で過ごしている。しかし。
「同じ教室で話されれば、聞こえてくるし」
「いや、その……」
 菜雪は気まずように目を泳がせて、その視線の先に言い訳か逃げ道を探しているようだった。
 「すぐれた奴」、という意味で「すぐる」。勉強を真面目にやって、先生の言うことや校則を馬鹿正直に守って、学級委員で、寮長で……。絵に描いたような『優等生』だ、と揶揄している。それがこの呼び名の真意だ。
「別に、気にしてないから、良いけど。まあ、どっちにしたって深江のことは先生に言わないよ」
「でも、何で……」
「『何で』って、言ってほしいの?」
 すると彼女は首を横に大きく振った。
「まさか。私生活指導の先生に嫌われてるから、絶対面倒くさいことになるよ」
「じゃあ、いいじゃないか。星を見ていただけで、別に問題行動をしていたわけじゃないからさ」
「いや、夜間外出自体が『問題行動』なんじゃ……」
 それを聞いて菜雪は、歯切れの悪い言葉で自分の違反を申告した。
「そうだよ。一人でこんなところに来て、危ないからもうやめるんだよ」
 菜雪の自白を受けても優はそれ以上追及
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