≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
≪イルファング・ザ・コボルドロード≫ その参
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の心にも異様な冷たさがやってきた。あれはキリトの本心じゃない。あの演技くさいセリフを本気で吐くやつじゃない。そんなことをしなくても、少し時間をかければこの俺が――
インディゴが強く袖を引っ張り、俺を止めた。彼女の顔に目を遣ると、強い意志の目と会った。俺は長い思考のあと、二度だけ頷き、半歩前に出た足を退いた。
「――でも、俺はあんな奴らとは違う」
冷笑を浮かべながら語るキリトに、心で呟く。君に任せるよ、と。
「俺はベータテスト中に、他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知っていたのは、ずっと上の層でカタナスキルを使うMOBと散々闘ったからだ。他にもいろいろ知っているぜ、アルゴなんか問題にならないくらいな」
その後、キリトの思惑通り周囲の人間は怒りを爆発させ、チートだベータのチーターだという怒声が交じり一つの単語≪ビーター≫が耳に入る。
「……≪ビーター≫、いい呼び方だなそれ」
キリトは周囲をぐるりと見回し、はっきりとした声で続ける。
「そうだ、俺は≪ビーター≫だ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」
その言葉に内心苦笑する。『一緒にしないでくれ』か。それはきっと心からの懇願なのだろう。この言葉で、恐らくは≪素人の元ベータテストプレイヤー≫と≪ビーター≫という存在に区分をつけたいのか。キリトは、かつての二か月で膨れ上がったベータテスターへの怒りを、たった一人で背負うつもりなのか。
「キリトも強いな」
ぼそりと独り言が出てくる。驚きと呆れと色々な感情が混ざり合い、混沌とした感情は結局≪小さな尊敬≫と成った。
上層へと昇っていくキリトを見送りながら、俺は最後まで動かないでいることができた。
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