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ジューン=ブライド
第一章
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女の側には一升瓶が置かれている。烏賊ゲソを焼いたものをつまみにしながら飲んでいる。
「仕事を辞めて一緒にならないかってね」
「いいんじゃないですか?」
「よくないわよ」
 憮然としてそれを否定する。
「仕事を辞めたくないのよ。好きな仕事だから」
「先生の仕事がですか」
「ええ」
 紗江子は生徒達からも父兄からも評判のいい先生である。明るくて面倒見がよく公平に接するからだ。簡単なようで意外と難しい。そうしたことができる先生なのだ。
 その紗江子が今ふてくされ気味で飲んでいる。その理由は至ってありきたりというか何処にでもある話であるが今の彼女にとってはそうではなかった。かなり真剣な顔であった。
 彼女は今とにかく不満であった。それがもとで別れることになったから当然と言えば当然であるがそれでもふてくされないわけにはいかなかったのである。
「仕事もそっちも両立させたいのよ」
 彼女は言う。
「何があってもね」
「そうなんですか」
「そうなの。確かに誰かに側にいて欲しいけれど」
 一旦顔に憂いを浮かばせる。しかしそれは一瞬ですぐに元のふてくされた顔に戻る。その顔で言葉を続ける。止まらない感じになっていた。
「仕事もね」
「真面目なんですね、先輩って」
「そうでもないわ」
 それは否定する。
「だって。やりたいことをやってるだけだから」
「そうなんですか」
「そうよ。私はしたいことをしてるだけ。それだけよ」
 そう言うのだ。言いながらまた酒を飲む。もうかなり飲んでいるがそれでも飲み続ける。真っ赤な顔と酔った目が艶やかであるが彼女は意識していない。
「けれどそれでもいいと思いますよ」
「いいの?」
「ええ。だってそれが他の人にも先輩にもいいことになってますから」
 明はそう彼に述べてきた。彼は学校では優しくて大人しい先生として知られている。だから紗江子もこうして話をしているのである。所謂話し易い存在ということだ。
「いいと思いますよ」
「そうなの」
「そうですよ。だからこのままいけば」
「そう言うのなら」
 彼女も悪い気はしない。むしろその気になってきた。それが彼女の気持ちをいささか楽にさせた。楽になったところでまた一口飲む。それからまた述べた。

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