第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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たん、ぱたんと仏壇を閉めて、静かな心持ちで背を向けると、
バン!
仏壇の扉が、内側から激しく叩かれた。
バン! バン!
その衝撃で、扉が内側からたわむ。
「ああ……」
あさがおは嘆き、仏間の襖を今度はきちんと閉めきって、寝室に戻った。
「ごめんね……」
二階の寝室に戻るが、一階から、まだ、音が聞こえ続ける。バン! バン!
「ごめんね……お母さんごめんなさい……ごめんねぇ……勘弁してねぇ……」
夜はまだ長い。
※
あさがおへ。お元気ですか? お母さんは病棟を移ってようやく、ここでの暮らしの楽しみを見つけました。それはラジオを聞くことです。なぜかというと、ラジオがこの間、いつかあなたと見たトンビのお話をしていて、トンビを指さして笑っていた女の子のお話ですが、あれはあなたのことなのでしょう。あなたが手紙が盗まれている可能性に気付いて、お母さんを励ますために、ラジオを利用したのでしょう。大変賢い手段を考えたものだとお母さんは喜んでおります。とはいえ私の楽しみをあいつらは片っ端から取り上げるか、破壊しようとしますから、お母さんもまた大変慎重に、そして賢く振る舞っているのですよ。まず、ラジオは幸いにも、交流室の一番窓のところにありますから、お母さんはまず誰も見ていないときにラジオに無線イヤホンをさして、自分の耳にも無線イヤホンを入れて、窓の外を見るふりをしてラジオを聞いているのですが、ある時私がラジオを聞いていると、この病院のいまいましい看護師どもがどうやってかラジオを盗み聞きして笑っていることに気がついたのです。あの連中はイヤホンをしていませんから、イヤホンがなくてもラジオが聞ける機械を手術で埋め込んでいるに違いありません。そうして私だけのたった一つの楽しみをかすめ取って嘲笑っていたのです。だからあさがお、次の連絡手段にラジオを使うのはやめた方が賢明でしょう。看護師たちにラジオの手術をして、お父さんを小人にする手術をした悪い連中はもう、この方法に感づいています。けれどおかげでお母さんは気がついたのです。あの時私のラジオを盗み聞きして笑っていた看護師は、何年か前に、私の鞄を置き引きした犯人です。あの看護師は、笑う時、くねくねと体をよじって私に背中を向け、それからすぐ、布がかかったた台車の持ち手の中に、両手を隠したのです。あのこそこそした動きは泥棒の動きです。だいたい、台車の持ち手の部分にまで布をかけて隠すなんて、おかしいと思いませんか。他の愚かな連中は騙せても、私の目は欺けませんよ。私はあの看護師が、私を孤立させるために、あなたから私への手紙を隠していることを知っています。でなければ、あなたから届く手紙の数が少なすぎる理由にならないからです。あの看護師だけではなく、病院の人間全員がそうなのです。だけどお母さんはあなたを信じ
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