第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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ういえばマキメがそんなことを言っていた気がする。
「そこでも撃てなかったんだ。すごい苛められてさ。結局居着けなかった。俺どこ行ってもそうなんだよね。なんでなんだろうね」
島は両手で顔を覆い、「それでさ」声を絞りす。
「遺族の人が庇うから……この人は生きてるって。撃つならあなたは人殺しだっ、て……」
クグチは話を聞くのが辛くなった。かといって喋るなとも言えず、この場から離れることもできず、黙って聞く形になった。
「だって……悲しいじゃん。たとえ人間じゃなくたって、UC銃で撃ったら、消えてしまったら、もうその姿を二度と見ることができないんだ。二度と声を聞けないんだ。考えちゃうんだよ。廃電磁体が存在するのは、遺族のそばにいてあげたいからなんじゃないかって。この電磁体の生前の持ち主はそういう人だったんじゃないかって。それが……死んでしまった今でももてる、唯一の希望なんじゃないかって」
奴らに存在するよすががあるとしたら、それは何だ?
別れ際の強羅木の質問を思い出した。あの時は、人として弔われたいからだと、クグチは答えた。なるほど。遺族になってしまった家族のそばにいてやりたいから。あの時は思いもしなかった。しかし島なら、同じことを聞かれたら迷いなくそう答えるだろう。どちらが正しいとかよりよいというものでもないだろう。けれど島は葛藤している。どうすれば自分の考えの通りに行動できるかわからなくて、泣くほど苦しんでいる。
俺は何も苦しんでいない。何も考えていない。
「ごめんね、俺、鬱陶しいよね」
「いえ。全然」
「明日宮君は強いよ。俺と同い年の人が来るって聞いた時嬉しかったけど、俺より全然しっかりしてる」
「別に強くもしっかりしてもないっすよ。多分……こういうの……流されてるだけって言うんだと思うし。世の中に」
島は何か反論したそうだったが、言葉が見つからなかったようで、聞いてくれてありがとう、と言って立った。
「俺寝ることにする。おやすみ」
クグチは無言で片手をあげ、応じた。
島がいなくなってから、深く息を吸って吐いた。
消えてしまったら、二度と姿も見れないし、声も聞けない。あさがおの姿の廃電磁体を消去できないのは、そういうことだろうと、クグチは理由をつけて納得した。自分に家族がいたことについて、それを伏せられていたことについて、納得していないからだ。
向坂ルネの守護天使を保存したのは向坂ゴエイだろうか。クグチはその可能性に気付いた。
持ち主を亡くした守護天使は、すなわち廃電磁体だ。速やかに消去しなければならない。
けれど向坂ゴエイは、もともと電磁体の研究者だった。下手なACJ社員より遙かに電磁体の仕組みに精通しているはずだ。向坂ルネの守護天使を凍結・隠蔽する何らかの手段を持っていたとしても不思議ではない。
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