第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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俺はそう正しく認識している。あれは……だって……そう……家族の遺品だ! だからこのまま壊れてしまうには惜しいと思っている。ただそれだけのことだ。そうに違いない。それ以外の理由で廃電磁体の消去を躊躇うなどありえない。俺はあれを実の姉そのものだなんて思っていない!
俺はこないだ、向坂ルネが生前所持していた守護天使を、廃電磁体を、消去した。それまでも同じように消し続けてきた。仕事だからだ。何とも思わなかった。例えばルネを消したことについてだって、今だって何も思っていない。
クグチはソファのクッションに拳を叩きつけた。一日中自転車で広い都市を移動し続けて、疲労しているはずなのに、まだ力が有り余っている感じがする。
俺は、と、そして更に思う。「ひとでなし」と散々言われてきた。顧客から。消去対象の廃電磁体のもとの持ち主の遺族から。あるいは自分の守護天使をあえて廃電磁体にリンクさせて汚染し、廃電磁体が持つ生前の持ち主の面影を保存した人々から。人ではないのはこいつらだ。廃電磁体たちだ。そう言い続けた。それが仕事だからだ。他に自分に就ける仕事がないからだ。
俺は人間じゃないのか? 無言のまま、更に自分に自分が問う。廃電磁体たちは人間の姿に見え、人間のように思考し、動作し、人間のように扱われている。この自分も人間の姿で、思考し、動作する。けれど感情はこんなに鈍磨して、冷ややかで、色々なことがもうどうでもよくて、自分の未来や人生にももはや興味がもてなくて、ひとでなしと評されている。自分と廃電磁体とを真に隔てるものはなんだ?
あるいは、根津あさがおが生前所持していたあの電磁体がいざ消えたら、こんな俺でも悲しくなって泣くだろうか?
そこで、違和感が思考に歯止めをかける。
そうだ。
向坂ルネが死んだのは、強羅木によれば二年前だ。それが何故、今頃になって廃電磁体となって現れたのだろう?
島が部屋に入って来た。暗い顔をしている。
「どうしたんですか」
クグチは何も考えていない、ただぼうっとしていただけだというふりをして、島に尋ねた。目が赤く充血している。
「また岸本さんに何か言われたんですか」
「ああ、うん、何でもないよ」島はうっすらと笑い、「いいんだ」
隣に座った。島の重みでソファが沈んだ。
「俺さ、駄目なんだよね。撃てないんだ」
横目で島を伺った。取り繕うような笑みを浮かべてクグチを見ない。
「今まではみんなの後ろついてって、それで誤魔化してたんだ。でももうそうもしてられないよね。だけどさ。駄目なんだ。どうしても撃てないんだ」
「廃電磁体は大概人の姿をしてる。人の姿をしてるものを撃てないのは人間の本能です。そんなの仕方がない。誰だって最初はそうですよ。島さんまだ半年めじゃないっすか」
「俺中学出てすぐ軍隊入ったから」
そ
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